第68話:貫禄
大将戦。
大吾が、ゆっくりと立ち上がる。その背中には、いつもの荒々しさとは違う“重み”があった。
「頼むぞ、大将」
瞬の声に、大吾は振り返らないまま片手を上げた。
「任せとけ」
短い一言。だが、その声にはわずかな硬さが混じっていた。
開始線。対峙する相手は、無言。だが、その構えには一切の隙がない。
(……強ぇな)
大吾は直感する。これまでの相手とは違う。圧をぶつけても、崩れる気配がない。むしろ――。
(観察されてる)
「始め!」
静かに右足を踏み込む。
――だが。スッ、と相手は半歩だけ下がり、大吾の間合いが“外れる”。
(打って来ない……)
すぐに詰め直す。だが、相手の竹刀が大吾の剣先を抑える。打てない。
(来る気がねぇか……クソ!)
もう一度踏み込む。今度はフェイントを混ぜ、面に見せて小手。
だが、相手は素早くバックステップすると同時に、鋭い『引き面』を放った。
パァン!
「面あり!」
大吾が空振りした打ち終わりを完璧に決められた。一瞬で空気が凍る。
「……マジかよ」
瞬の声が低く落ちる。ゆっくりと時間をかけて開始線に戻る大吾。呼吸がわずかに荒い。
(読まれてる……? いや、よく……わかったよ)
二本目。構える。観る。だが――。
(違うな。俺は“観る側”じゃねぇ)
一瞬で理解した。なら――攻め込む。迷いを捨てる。攻めたら、後は身体に任せるだけだ。
パァァン!
乾いた音が響く。
「面あり!」
「よしっ!」
瞬が拳を握る。守屋が目を見開いた。
「……今のは……狙ってない。自然に身体が動いた……」
合宿で叩き込まれた身体の反応。考えるより先に、筋肉が覚えている。大吾の野生的な勘が冴え渡る。
(悩むな、自分を信じろ)
三本目。空気が変わる。相手の圧力が膨らんできた。
(勝負に来るな……!)
そこからは、お互いに一歩も引かない打ち合いとなった。大吾の竹刀がしなるように舞う。一本で終わらない。二本、三本と相手に襲いかかる。だが相手も負けていない。躱せばすぐに鋭い剣先が襲いくる。
息をつかせぬ攻防に、観客の目は釘付けになった。
相手の息が上がってきた時、均衡が破れた。
間合いが切れた所からの、相手の『捨て身』の面。だが、大吾の反応は早かった。相手の竹刀を割って入るように、真正面からの相面。
鈍く重い衝突音が試合場に響いた。
「面あり!」
「俺の勝ちだ」
興奮状態の大吾が、鋭い目付きで言い放つ。
チームの元に戻った大吾に、守屋が言う。
「こんなに強かったかな……」
「ここの空気がそうさせるんだろ」
一方、チームに戻った対戦相手は、しばらく呆然としていた。




