第58話:格
明鏡館の六人に合宿の疲れを取るように休みを言い渡した康介は、一人、虎皇館の門前にいた。
「……弟子のために、一肌脱いでやらねぇとな」
道場に入った康介は、門下生に案内されて大河内のいる師範室に入った。
「……こんな所まで来て、何の用だ成瀬」
大河内の威圧的な言葉に臆することなく、まっすぐ見つめてから頭を下げる康介。
「明鏡館を虎皇旗に参加させてください」
しばらくの沈黙があった後、大河内が重い口を開く。
「ならん。お前たちに参加する資格はない」
はっきりと、大河内は答えを出した。
「……お願いします……」
頭を下げる康介に、大河内は眉間にしわを寄せて吐き捨てる。
「……お前ほどの男が、燃えカスのために頭を下げるのか。失望したぞ」
ピクリ、と康介が反応した。
「守屋を引き取ったからですか?……」
康介の声が静かに、そして重く響く。
「みくびるな!」
大河内は怒声混じりに答える。
「お前、虎皇旗をどんな大会だと思ってるんだ。全国から厳選された強者が集まるんだ。参加するには『格』が必要なんだよ。数合わせのギャラリーは必要ない」
頭を下げたまま動かない康介を、ソファーの上から見下ろす大河内。
奥歯を噛み締め、声を絞り出す康介。
「あなたは何故……そんなにも強さにこだわるのですか?」
「何故? ……想像してみろ。名のある指導者が皆、俺に頭を下げる。誰も俺を無視することはできん。何故かわかるか? 強いからだよ。これが俺の『交剣知愛』だ」
自分の考えを絶対の正義だと信じて疑わない大河内。
(敗北は……この人をここまで歪めてしまったのか……)
拳を握り締めながら震える康介。
「……『格』が必要なのですね? ならば、うちの選手が参加するにふさわしいことを証明してみせます」
康介の言葉を嘲笑うように、大河内が問いかける。
「ほう……どうするのだ?」
「あなたの耳まで届けてみせますよ。うちの強さを」
師範室を後にし、誰もいなくなった稽古場を通り過ぎようとする康介が見たのは、一人残って素振りをする鷹司だった。
(母親を待っているのか……)
鷹司の過去を知った今、素振りの風切り音は母親を求めて泣いている子供の声のように聞こえた。しばらく見つめた後、静かにその場を去る康介。
帰り道、康介は呟いた。
「人は、正しいと思っている時に、間違いを起こすんですよ……大河内先輩……」




