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第54話:明鏡

 最後の一時間。

 それは、明鏡館の六人にとって合宿の仕上げにふさわしい濃密な六十分だった。

 康介こうすけの容赦ない「厳しさ」に叩かれ、裕一ゆういちの深く包み込むような「優しさ」に導かれ、そしてはるかの剣道を心から慈しむ「楽しさ」に触れる。

 六人は、壊れかけた肉体を精神の力だけで繋ぎ止め、この三日間で得たものを一撃一撃に込めて放った。

「――やめ!」

 康介の鋭い号令が、夕暮れの道場に響き渡る。

 その瞬間、張り詰めていた糸が切れた。

「終わった……」

 しゅんが床に手をつき、荒い息を吐きながら呟いた。

 視界が汗でゆがみ、心臓の鼓動が耳元でうるさいほどに鳴っている。だが、その胸の内には、泥のような疲労感と一緒に、不思議なほど透き通った感覚が広がっていた。

「……やりきった。本当に、やりきったわね」

 りんが面を外すと、その顔は汗と涙が混じり合い、それでいて見たこともないほど凛々しく輝いていた。

 隣では大吾だいごが、もはや声も出せずに上を向いて大の字になり、佐伯さえきは震える手で何度も眼鏡をかけ直している。

 守屋もりやは、遠くに立つ母親と、自分を認めてくれた裕一に深く一礼した。

 そして杉森すぎもりは――。

 防具を外す気力もなく、床に伏したまま号泣していた。

「……僕、辞めなくて……本当に良かった……!」

 その泣き声に、道場の空気がふっと緩む。

「……全員、整列」

 康介の声が、いつになく静かに、しかし厳かに響いた。

 六人は、痛む身体を引きずるようにして一列に並ぶ。その正面には、康介、裕一、そして遥。

 康介は、ゆっくりと六人の顔を一人ずつ見つめた。

「……この三日間、お前たちは自らの手で『理』を掴み取った。それは誰に取られるものでもない、お前たちの血肉となった物だ」

 康介が一度言葉を切り、道場の窓の外、沈みゆく夕日に目をやった。

「虎皇館は強い。だが、お前たちはもう、あの山を見上げるだけの存在ではない。……山を動かす準備は、整った」

 瞬は、その言葉を噛み締めるように拳を握った。

 合宿は終わった。だが、ここからが本当の始まりだ。

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