第51話:月下の独習
深夜、みんなが寝静まった頃。
微かな物音に、瞬は目を覚ました。
(ん……? 誰か起きてるのか)
暗闇に目を凝らすと、そこにあるはずの杉森の姿がない。
(まさか、逃げ出したんじゃ……)
瞬は慌てて隣の守屋を起こした。
「守屋、杉森がいないんだ」
「なんだって?……いや、あり得るな」
厳しい環境に耐えきれず脱落する者を、守屋は虎皇館で嫌というほど見てきた。二人は佐伯も起こし、三人で静かに道場を出た。
玄関を出たところで、彼らは足を止めた。
月明かりの下、杉森が一人、竹刀を振っていた。その表情は、普段のひょうきんさとは無縁の、思い詰めたものだった。
「杉森くん、何やってるんだ。早く寝ないと……」
瞬の声に、杉森はびくりと肩を揺らした。
「あ、ごめん……。でも、もう少しだけ。僕は、みんなと違いすぎるから。……それに、早く凛さんに見直されたいんだ」
その必死な言葉に、瞬は言葉を失う。
「不甲斐ない自覚があるのは結構ですが、勝手な行動は論理的ではありませんね」
佐伯が突き放すように言うと、瞬が「その言い方は!」と詰め寄る。だが、守屋がそれを制し、瞬の耳元で囁いた。
「こうでも言わないと、彼はやめないよ。……杉森くん、明日本当に倒れるぞ。入ろう」
三人に促され、杉森はしぶしぶ道場へ戻った。その四人の背中を、影から見つめている存在があった。大吾と、そして凛だ。
「……とっくに見直してるわよ、杉森くん」
凛の小さな、しかし確かな呟きが、夜の静寂に溶けていった。
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