第50話:研ぎ澄まされる心
「……終わった」
誰かが小さく呟いた。
二日目の夜。夕食を終えた六人は、もはや初日のような騒がしさを見せることはなかった。喋る筋肉すら惜しいほどに消耗しきっている。だが、そこには重苦しい沈黙ではなく、過酷な稽古を共有した者同士にしか分からない、澄んだ空気が流れていた。
道場の一角で、六人は円になるように座り、黙々と防具の手入れを始めた。
シュッ、シュッ。
手拭いで面金を拭う音と、使い込まれた小手の匂い。
瞬は、自分の右拳の感覚を確かめるように、小手の内革をなぞった。
「……なんか、不思議だよな」
ぽつりと、瞬が口を開いた。
「昨日はあんなに辛くて、明日が来るのが怖かったのに。今は……早く明日にならないかって、思ってる自分がいる」
「……同感ですね」
佐伯が、丁寧に眼鏡を拭きながら応じた。
「身体はボロボロで、明日の筋肉痛を計算するのが恐ろしいくらいですが……。脳が、あの『反応』の快感を求めているのが分かります」
「分かるわ」
凛が、甲手紐を締め直しながら頷く。
「竹刀が、自分の身体の一部みたいに思えた瞬間があった。あの感覚をもっと、もっと確かなものにしたい」
大吾は無言で、竹刀の弦を結っていた。その目は、これまでにないほど鋭く、落ち着いている。守屋はそんな仲間たちの様子を、柔らかな、しかし頼もしい眼差しで見つめていた。
「……僕、」
隅で小さくなっていた杉森が、震える声で言った。
「みんなの足元にも及ばないし、今日も派手に転んだけど……。でも、瞬くんたちが打った時、凄く興奮するんです。いつか自分もあんな風になりたいって。一緒に稽古できて、ほんとに嬉しい」
杉森の素直な言葉に、道場にふっと温かな笑いが漏れた。
そこへ、康介がゆっくりと歩み寄ってきた。
「二日目、よく耐えた。明日は最終日だ。……明鏡館の『剣道』を、仕上げにかかるぞ」
「……はい」
六人の返事は、初日のような威勢の良さはなかった。だが、それは岩のように重く、確かな響きを持っていた。




