第48話:引き出される理(ことわり)
稽古のメニュー自体は、昨日と何ら変わりはなかった。
しかし、元立ちの康介に対峙した瞬間、瞬は昨日とは決定的に違う「何か」を感じ取った。
昨日は力んでいたが、全身を襲う激痛により、今はもう抗う筋力すら残っていない。
「……はぁ、はぁ……っ」
瞬が構えを崩さず、スッと攻めた。その時だ。
康介の構えに、ふっと「穴」が空いたように見えた。
いや、康介が誘っているのだ。打つべき部位が、磁石のように瞬の竹刀を引き寄せる。
「――面っ!」
踏み込んだ瞬間、衝撃が走る。昨日あれほど苦労した「冴え」のある音が、無造作に放った一撃から放たれた。
「……今のは」
瞬が呆然と立ち尽くす。厳しい打ち込みでねじ伏せるのではなく、打つべき機会をあえて作り出し、そこへ導くような、不思議な感覚。
「次、来い!」
康介の鋭い声。続く大吾も、凛も、次々と吸い込まれるように竹刀を振るっていく。
【休憩時間】
面を外した六人の顔には、疲労困憊ながらも、どこか憑き物が落ちたような清々しさが漂っていた。
「……なんか、変なんだ。自然に打てるっていうか、竹刀が勝手に走る感覚があって」
瞬が、自分の右手のひらを見つめながら呟く。
「引き出してくれてるんだよ、先生が」
守屋が静かに言った。
「僕たちの無駄な力が抜けたタイミングを見計らって、『打つべき機会』を『作って』くれている。成瀬先生の技術は、もう僕らの想像を超えてるね」
「……なるほど。意図的な隙によってこちらの反射を誘発し、身体に正解の軌道をマッピングさせているわけですか。思考回路をバイパスして、直接運動神経に……」
「……ほら、また頭で考えてるわよ、佐伯くん」
凛のツッコミに、道場に小さな笑いが起きた。
「……でも、僕にも分かりました」
倒れ込んでいた杉森が、顔を上げた。
「成瀬先生に打たせてもらった時、一瞬だけ、自分が強くなったみたいに錯覚しました。……あれを、自分の力で出せるようになりたい」
杉森の言葉に、全員が頷く。
午前中の稽古を終えた六人。「休むと……余計動けなくなる……」と瞬が歯を食いしばる。
「今日こそは……最後までやるんだ」
杉森の言葉に、大吾が「そこまで根性見せるとは見直したぜ」と笑う。
「凛さんに……いいとこ見せないと……」
その言葉に、佐伯が即座に反応した。
「動機が不純ですね……」




