第47話:逆説の開眼
夜明け前。道場に敷かれた寝袋の中で、最初に目を覚ましたのは瞬だった。
起き上がろうとした瞬間、全身が悲鳴を上げた。
(……っ、動かない。石膏で固められたみたいだ)
「……いっ」
最初に声を上げたのは凛だった。寝袋から出ようとした姿勢のまま固まっている。
「予想通りですね。遅発性筋肉痛のピークは起床時……あ、手が……」
佐伯が淡々と分析するが、眼鏡を直す手すら小刻みに震えている。
「……全員、起きているな」
康介の声が響いた。いつの間にか入り口に立っている。
「筋肉痛は成長の証拠だ。だが、今日も稽古はある。……とりあえず飯にしろ」
遥に促され、這うようにして食堂へ向かった六人を待っていたのは、守屋の母親だった。
「お母さん!? なんでここに」
「お父さんが、頑張れって。昨日から泊まり込みで準備してたのよ」
守屋の目が潤んだ。反対していた父が、母を通じて送ってくれた無言の応援。
「遥さん、美味しいです」と杉森。
「当たり前よ、守屋のお母さんが丁寧に出汁を取ったんだから」と遥がなぜか胸を張る。
「なんで母さんが自慢気なんだよ」
瞬のツッコミに、重かった空気が少しだけ解けた。
稽古開始。康介が竹刀を手に取り、静かに告げる。
「昨日、余計な力を抜いた状態で打った面の『音』を覚えているか。身体が悲鳴を上げている今日こそ、その音を意図的に出す最高のチャンスだ」
(痛いからこそ、力が入らない。力が入らないから、身体の使い方が自然になる……)
「はじめ!」
二日目の稽古。静かな、しかし昨日より鋭い踏み込みの音が、道場に響き始めた。
「ついつい読んでしまう」と思ってくださった方は是非ブックマークで応援をお願いします!
皆さまの一票が大きな励みになります!




