第45話:極限の冴え
「――そこまでだ。午前終了!」
康介の宣告と同時に、道場の床に六つの体が沈んだ。防具を外す力すら残っていない。
「はい、まずは顔を拭いて。無理にでも水分を摂りなさい」
遥が差し出すタオルの冷たさが、朦朧としていた彼らを現実に引き戻す。昼食時、おにぎりを運ぶ杉森の手は激しく震えていた。
「午後は基本だ。徹底的に踏み込みを鍛える」
午後一時三十分。康介の非情な声が再び響く。地味で過酷な運足の反復。杉森がフラフラになりながらも「できない」と零すと、凛が「腰が抜けてるのよ、みんなを見て」と鋭い激励を飛ばす。
続いて手首の冴え。大吾が強烈な音を鳴らす傍ら、佐伯は「力じゃない、小指の締めだ」と理論を体現してみせる。
「面を付けろ。追い込みだ!」
いつ終わるとも知れない『追い込み』。瞬と凛が必死に食らいつく中、杉森が派手に転倒した。
「杉森、もう終わりか!」
「まだ……やれます!」
だが、足がいうことを聞かない。悔しさに顔を歪める杉森を、遥が優しく下がらせた。
杉森が「足を引っ張ってごめん」と俯くと、守屋が「あのメニューは君のことを考えて組まれてるんだよ。僕らのためでもあるけどね」と微笑んだ。
稽古再開。だが、瞬の手は震え、面紐すら結べない。
「……手が、死んだか。力を入れすぎたな。もうやめとけ」
「……やります。やらせてください!」
瞬は自分の両腕を叩き、感覚を呼び戻す。その様子を見て、康介がニヤリと笑った。
「……いいだろう。余計な力が抜けて、ちょうどいい。そのまま一本ずつ、丁寧に打て」
思考を捨て、疲労に身を任せる。足から腰、最後に手の内が「冴え」を産む。
――パァーン!
道場に響いたのは、今日一番の澄んだ音だった。満足げに目を細めた康介が、短く告げた。
「今日はここまでだ!」
張り詰めていた空気が、ゆっくりと溶けていった。
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