第40話:余熱と静寂
早川先生が、両校の生徒を前に締めの挨拶を述べる。
「皆さん、お疲れ様でした。明鏡館の諸君の成長には驚かされたよ。剣道は、運動神経や一部の天才だけが勝てる世界ではないことを、改めて教えられた気がする。今日は本当にありがとう」
「もったいないお言葉です。私共も、新たな課題が見つかりました」
康介もまた、静かに頭を下げた。
整列が解かれ、互いに歩み寄る。
「杉森くん、君たちのおかげで、少しだけ強くなれた気がする」
瞬が真っ直ぐに視線を向けると、杉森は気恥ずかしそうに視線を泳がせた。
「へぇー。その自信、私があとでへし折ってあげるわ」
凛が横から口を挟む。瞬に向けた刺すような視線とは一転、杉森に向き直ると、柔らかな笑みを浮かべた。
「杉森くん、また来てね。次は私と試合しようね」
「あ、あ……うっす! ありがとうございます!」
あまりの落差に、杉森は顔を真っ赤にして言葉を詰まらせた。
「おい、次は絶対『誘って』やるからな!」
負けた相手に向かって大吾が豪快に叫ぶ。
「……正々堂々とすることと、手の内を見せることは違いますよ、大吾さん」
佐伯と守屋が呆れたように溜息をついた。
青原中のメンバーが去り、道場にいつもの静けさが戻り始める。
「……やる事がたくさん見えて、何から手を付けるか迷うな」
「瞬はまず『攻め』の強度ね。今のままじゃ通用しないわよ」
凛の言葉は厳しいが、その瞳には瞬を認める光が宿っている。
「……よし! 稽古だ! 今からやろうぜ!」
大吾の叫びに、全員の心が動いた。
「確かに、今すぐ試したい」
「今日の感触を、確かな形にしたいですね……」
「あんたたち、本当に剣道バカね。……仕方ないわね」
凛もすでに防具の紐に手をかけていた。
昂ぶる熱に突き動かされ、全員が再び動こうとした、その時。
「――ちょっと待て」
背後から響いたのは、低い声だった。振り返ると、腕を組んだ康介が立っている。
「何か忘れていないか? ……大吾だけでなく、全員だ。師範室へ来い」
康介の声が、全員の身体の芯まで重く響いた。




