表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
40/122

第39話:形と理(ことわり)

「副将、前へ!」

 守屋が、いつもの柔和な笑みを浮かべて立ち上がった。

「はじめ!」

 青原中の副将は、前3つの敗戦で気負いしているのか、必死の形相で気合を吐き出している。今にも襲いかかってきそうな殺気だ。

 だが、守屋の構えは驚くほど落ち着いていた。

「……構えが、静かだ。今までと違う?」

 瞬が呟くと、佐伯が静かに答えた。

「腹が据わってるんですよ。打とうという気を見せない」

 相手の「打ちたい」という欲望が最高潮に達した瞬間、守屋が動いた。右足を静かに半歩踏み出し、竹刀をわずかに右へ開く。それは、自分の面を「どうぞ打ってください」と言わんばかりの無防備な誘いだった。

(……さあ、おいで)

 相手がその餌に飛びついた。

「メェェーン!」

 守屋の頭上目がけて竹刀が振り下ろされる。だが、守屋の竹刀はすでに上方にあった。

 ――シャリ。

 しのぎで相手の竹刀の軌道をわずかにずらす。そのまま半円を描くように竹刀を落とし、相手の脳天を捉えた。

 パァーン!

「面あり!」

「擦り上げ面……!」と凛が息を呑む。

「華麗ですね。相手の竹刀が面の軌道から外れていった」と佐伯が補足した。

「……誘ったんだ。相手が打突する前に、勝負は決まってた」

 残心する守屋の姿は、芸術品のように美しかった。

 二本目。一本取られた恐怖から、相手は打ってこない。守屋は一転、鋭い攻めで圧力をかける。相手が危険を察知し、迎え撃とうと手元を上げた時には、すでに守屋の竹刀が迫ってきていた。

「面あり! 勝負あり!」

 戻ってきた守屋は、涼しい顔で肩を回した。

「攻めてからの誘いをやりたかったんだけどね。まあ、あれはあれで良かったかな」

「玄妙な技でしたね」と佐伯。

「かっこよかったよ!」と凛。

(すごいな、守屋……。あんなふうに相手を操れるなんて)

 瞬がそう感じた時、一人だけ別の火がついた男がいた。

「大将、前へ!」

 大吾が立ち上がる。守屋の「誘い」に感銘を受けたのか、その瞳には奇妙な決意が宿っていた。

「はじめ!」

 大吾は微動だにしない。相手が間合いを詰めてきても、ただ竹刀を下げて面を差し出した。

「……え、危なくない?」と凛が眉をひそめる。

「まさか……大吾さん……」守屋の顔が青ざめた。

 パァーーン!

「面あり!」

 守屋のような「誘い」も「擦り上げ」もない。無防備に的を差し出しただけの大吾は、文字通り正面から叩き切られた。

「あのバカが!」康介の声が道場に響く。

「守屋の真似を……!?」瞬が絶句した。

「……理屈が伴わないのに、形だけ真似るからだ」佐伯が冷たく吐き捨てた。

 一本奪われ、頭に血が上った大吾の剣道は、見る影もなく崩れた。力任せに竹刀を振り回すが、一度も相手に届くことはなかった。

「勝負あり!」

 惨敗して戻ってきた大吾は、頭を掻きながら笑った。

「いやあ……みんな新しいことするからさ。はっはっは……」

「大吾、あとで師範室へ来い」康介の声は静かだったが、有無を言わせない重さがあった。

「しっかり指導してもらいなさい」凛が冷たく言い放つ。

「泥試合だったねぇ……」守屋が遠い目をした。

 佐伯が、呆れたように瞬を振り返った。

「いいかい、瞬。心が乱れると剣道も乱れる。練習もせずに見よう見真似でする技は、ただの自殺行為だよ」

「……よくわかったよ」

 瞬は、大吾でも形だけでは通じないことを胸に刻んだ。知っていることとできることは違う。自分の血肉にするまでの、泥臭い過程が必要なのだ。

「集合! 今日の練習試合の総括を行う」早川先生の声が道場に響いた。

ここまで読んで頂きありがとうございます!

面白くなってきたと思った方は是非ブックマークで応援をお願いします!

皆さまの応援が励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【読者の皆様へ】 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます! 本作は全160話完結済みです。 完結まで毎日2回(朝・夜)、欠かさず更新してまいります。 もし少しでも「続きが気になる」「瞬を応援したい」と感じていただけましたら、 **下の【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります。 皆様の一票が、より多くの読者にこの物語を届ける力になります。 よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ