第31話:一歩の重み
次の日も、また次の日も、瞬は同じことを繰り返した。
昼の稽古では相変わらず全員に打たれる。だが、夜の闇の中、瞬は一人ですり足と、腰からの踏み込みを繰り返していた。
(イメージ通りにできるまで、やる。できないからと止めたら、一生できない)
左足に重心を乗せ、そこから身体を押し出す。足から、腰。上半身は最後。
ただ一歩動くだけの地味な動作。テレビの主人公がカッコよく修行を乗り越えるシーンとは程遠い、泥臭い反復に笑いたくなる。だが、そこへの最短ルートが、今この「一歩」だと信じて、身体に染み渡るように刻んでいく。
そんなある日のことだ。
瞬が間合いに入った瞬間、凛の剣先がピクリと動いた。
目の錯覚かと思うほどの微かな乱れ。だが、瞬はそれ以上動けず、またしても面を打たれる。いつも冷静な佐伯が、瞬の一歩に対して眉間にシワを寄せる場面もあった。
「形はそれっぽくなってるけど、自信がなさそうに見えるね」
守屋の言葉が突き刺さる。自信なんて、今はない。
(攻めが効いてる……? 違う、気のせいか。相手の反応が今までと違うような……)
「よく相手の変化に気がつくようになったな。攻めを考えることによって、相手の反応に敏感になっている証拠だ」
康介がいつの間にか後ろに立っていた。
「一眼二足三胆四力と言う。まずは観る目、次に足。お前は今、二つ目まで来ている」
「……俺が、ですか?」
自分では分からない。ただ、以前より相手の動きが「見える」ようにはなっていた。
「全員集合。――この前試合した、青原中のことを覚えているか? 一緒に稽古したいと連絡があった。明日は合同稽古だ」
瞬の胸が、わずかに高鳴る。泥沼の中で練り上げてきた自分の「足」が、外部の相手にどこまで通じるのか。
瞬が一人、構え直す。左足が、床を静かに押した。
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