第26話:王者の不協和音
虎皇館の道場。
他校が練習試合の余韻に浸る時刻になっても、ここでは凍りつくような冷気と、凄惨なまでの打突音が響き続けていた。
「――もうへばったのか。次ッ!」
鷹司の声が、道場に鋭く突き刺さる。次々と掛かっていく門下生たちを、彼は容赦なく叩き伏せていく。その剣は鋭利な刃物のようで、一切の慈悲がなかった。
「……おい、今日の鷹司さん、一段と激しくないか?」
「ああ。何かに苛立っているみたいだ」
「あの鷹司さんがか? いつも感情なんて見せないのに……」
防具の隙間から漏れる門下生たちの囁き。
「これ以上は、俺たちの体がもたねぇよ……」
その時、道場の奥から重厚な足音が近づいてきた。
「どうした鷹司。荒れているな」
大河内だった。その冷徹な眼光に、道場の空気がさらに一段、引き締まる。
「僕が……ですか?」
鷹司は、自分の剣が乱れている自覚がなかった。ただ、脳裏には焼き付いて離れない光景がある。
つい先日までここにいた、守屋。
感情を殺し、勝利の部品として戦っていたはずの彼が、あの少年たちと共に、心底楽しそうに笑っていた。その屈託のない笑顔が、鷹司の胸の奥をざわつかせ続けていたのだ。
「雑念が入っている。……私が相手をしてやろう。掛かってこい」
「――はい!」
鷹司は大河内に向かって地を蹴った。
彼は、大河内に掛かっていく時間が好きだった。中学生はおろか、並の高校生さえ寄せ付けない自分の剣を、赤子を捻るように圧倒する絶対的な「力」。
大河内に認められたい。大河内の視界に、自分だけを映していたい。
必死に打ち込んでいく刹那、鷹司は雑念を忘れることができた。師の冷たい瞳が、今だけは自分を真っ直ぐに捉えている。それが鷹司にとって唯一の、歪んだ「安らぎ」だった。
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