第25話:帰路
長い一日の練習試合が終わり、明鏡館は会場に確かにその足跡を刻みつけた。
夕闇が迫る中、揺れるワゴン車。車内には、使い込まれた防具の匂いと、心地よい静寂が満ちていた。
「――みんな、よく頑張ったな」
康介の穏やかな声が、後部座席に届く。
「私も、久しぶりに興奮しちゃった!」
助手席で遥がはしゃぎ、大吾が力強く拳を握った。
「俺は、もっとやりたかったっす。全然足りねぇ」
「……課題も見つかりました。あの『待ち』に対する解法を、もう少し煮詰める必要があります」
佐伯が眼鏡を押し上げれば、凛も小さく溜息をついた。
「私も、決め手が足りない。……悔しいな、やっぱり」
そんな仲間の会話を横目に、瞬は一人、窓の外を流れる夜景を見つめ、沈黙を守っていた。
「瞬」
康介がバックミラー越しに目を向ける。
「負けたことは悪いことじゃない。相手が、自分の弱点を教えてくれたんだ。……感謝しておけ」
「……感謝?」
その言葉を聞いた瞬間、瞬の脳裏に、かつての老師の枯れた声が蘇った。
――『打って反省、打たれて感謝じゃ』
あの時は、何を言っているのかさっぱり分からなかった。ただ、負けたことが悔しくて堪らなかった。だが、今日味わった悔しさと、そこから守屋や佐伯が繋いでくれた勝利。
(今なら、少しだけ分かる気がする……)
「それから、一人で抱え込むな。誰かが負けても、他の誰かがカバーする。それがチームだ」
康介の言葉を引き継ぐように、守屋が微笑んだ。
「絶対、良いチームになりますよ。だって……今日は、最高に楽しかったですから」
「ああ、俺も面白かったぜ!」
「大吾はいつも楽しそうでいいわね」
凛の呆れた声に、車内に笑い声が広がる。
「まずは今日できなかったことの強化だ。これを繰り返せば、確実に強くなる。やるぞ」
「はい!」
六人の返事が重なった。……が、凛がすぐに眉をひそめて助手席を振り返る。
「ちょっと、なんで遥さんまで返事してるのよ」
「あら、ごめんなさい。……昔のクセって、なかなか抜けないものなのね」
遥の茶目っ気たっぷりな言葉を、夜風がさらっていく。
それぞれの胸に、次なる壁を越えるための小さな火が灯っていた。




