第21話:沈黙の罠
「二本目!」
審判の鋭い声とともに、瞬は地を蹴った。
(まだ大丈夫だ。取り返す時間はいくらでもある……!)
相手は相変わらず、剣先を右に開いた不気味な構えを崩さない。瞬は間合いを詰めながら、相手の反応を冷徹に探った。
(普通に打てば返される。なら、タイミングをずらす!)
打ち込むと見せかけ、鋭く床を叩く。
――バンッ!
響く踏み込みの音。相手の手元が、誘いに乗ったかのように僅かに浮いた。
(そこだ! 面……と見せかけて、小手!)
面に伸びる竹刀の軌道を、空中で強引に小手へとねじ曲げる。刹那のダブルフェイント。
「コテェッ!」
次の試合を控えている凛が思わず身を乗り出す。だが、相手の剣先は死んでいなかった。顔の高さまで浮いた手元が、磁石のように瞬の竹刀を引き寄せ、小手への道筋を完全に遮断する。
(止まらねぇ……ッ!)
瞬の視界の中で、防がれた衝撃を逃がす間もなく、相手の竹刀が再び不気味な弧を描く。瞬は反射的に頭を捻り、紙一重でそれを回避した。
「――ッ!」
乾いた音が瞬の肩を叩く。一本にはならなかったものの、身の毛もよだつようなカウンターだった。
たまらず距離を取る瞬。
その様子を、控え席の守屋が厳しい表情で見つめていた。
「このレベルなら、今の攻め方は当然の知識として持っているはずだ。瞬の動きは、すべて読まれている……」
瞬の耳に、仲間の声は届かない。
聞こえるのは自分の荒い呼吸音と、面の中で反響する心臓の鼓動だけだ。
打つ手がない。攻めれば攻めるほど、死地へと追い込まれていく感覚。
試合時間は無情に過ぎていく。相手は一歩も引かず、かといって攻めてもこない。
(全然打ってこねぇ……。だが、そんなに逃げてたら反則だぞ!)
その苛立ちを見透かしたかのように、突如、相手が間合いを潰してきた。防御姿勢のまま、最短距離で間合いが詰まる。
(打つところがない……!?)
迷いが、瞬の身体を強張らせた。
「打たれる」という本能的な恐怖に負け、瞬は反射的に手元を上げ、面を守ろうとしてしまった。
その瞬間、相手の竹刀が閃いた。
防御姿勢から一転、無防備に晒された瞬の小手を、鋭く、正確に捉える。
「小手あり!」
「勝負あり!」
瞬は、自分の竹刀を握る手が震えているのに気づいた。
(……手元が、上がってた……)
自ら隙を作らされた。その屈辱的な事実を、瞬は呆然と噛み締めていた。
会場の喧騒が戻ってくる中、瞬は初めて味わう完全な「敗北」に立ち尽くしていた。




