第20話:螺旋(らせん)の罠
瞬の目の前に立つ男は、これまでの敵とは異質な気配を纏っていた。
(なんだこいつ、まっすぐ構えない……!?)
相手は正対せず、剣先をわずかに右へ開いている。誘っているのではない。そこから先へは一歩も通さないという、拒絶の構えだ。
瞬が間合いを詰めると、相手の手元がピクリと浮く。
(構えだけでわかる。守っている。面を打てば、そのまま返し胴を食らう――)
一瞬の躊躇。だが、高揚した瞬の思考は、すぐさま強引な次の一手を弾き出した。
(面がダメなら、小手だ!)
瞬は鋭い踏み込みとともに、斜めに開かれた相手の竹刀の隙間を縫い、最短距離で小手を狙った。
(この角度なら、いける!)
確信に近い手応え。しかし、相手の竹刀は瞬の予想を超えて、さらに深く開いた。
瞬の竹刀は相手の防御を越えられず、鈍い感触とともに弾き返される――そう思った瞬間だった。
相手は瞬の打ち込みの勢いを殺さず、それを円を描くような滑らかな回転エネルギーへと変換した。
瞬の竹刀の下を潜るようにして、相手の剣先が跳ね上がる。弧を描いた一閃が、無防備になった瞬の頭上へ吸い込まれた。
「――ッ、スパーーン!」
会場に、乾いた竹刀の音が響き渡る。
「面あり!」
審判の声が遠く聞こえる中、瞬は呆然と立ち尽くしていた。
(何が起こった……!? 小手を防がれたと思った瞬間に、もう面を打たれていた……)
自分の出番に備える凛が、ため息まじりに言う。
「あれ程言ったのに……」
「見事な返し面だな。相手の力をそのまま利用してやがる」
大吾が顔を顰める。佐伯は眼鏡の奥で、相手の手首の動きを冷徹に追っていた。
「手首が柔らかいですね。あんな円の軌道で返されると、攻めれば攻めるほど自分の力が刃となって自分に返ってくる」
一本先取された瞬の背中に、じっとりとした嫌な汗が伝わった。
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