第18話:交愛(こうあい)
Fリーグ、そしてEリーグ。
明鏡館の進撃は、もはや誰にも止められなかった。だが、その中身は先ほどまでの「圧倒」とは、似て非なるものへと変わっていた。
「ありがとうございました!」
試合が終わるたび、瞬たちは自ら相手へ歩み寄り、対戦に対する感謝を伝えた。
「……君たちは、どこの中学なんだ? 下位リーグにいる実力じゃないよ」
面を外した対戦相手が、呆然と、しかしどこか晴れやかな顔で問いかけてくる。
「俺たち、中学はバラバラなんです。道場で集まった仲間で」
瞬が答えると、周囲の選手たちからも驚きの声が上がった。
波紋は、静かに、だが確実に会場全体へと広がっていく。
かつては不気味な侵入者として遠巻きにされていた五人の周りには、今や多くの視線と、微かな熱気が集まっていた。
「明鏡館……道場はどこにあるの?」
「悔しいけど、完敗だ。……またいつか、稽古をお願いしたい」
投げかけられる言葉の一つひとつが、彼らの胸に染み込んでいく。それは虎皇館のような「支配」ではなく、剣を交えた者同士にしか分からない、剥き出しの「敬愛」だった。
「よく『交流してください』って聞くけど……これがそうなんだな」
次の試合を待つ間、瞬がふと呟いた。その表情からは、通路で見せたあの怯えは消えていた。
「佐伯の話も、みんなちゃんと聞いてくれるようになったな。最初はあんなに煙たがられてたのに」
大吾が豪快に笑いながら、佐伯の肩を叩く。佐伯は眼鏡を指先で押し上げ、淡々と、だがどこか誇らしげに言った。
「……交剣知愛ですよ。剣を交えて、愛を知る。互いに高め合った者同士の絆のことです」
「また難しい言い回しして」
凛が小さく肩をすくめる。
「でも……理屈はともかく、なんか、楽しいね」
守屋の言葉に、五人は顔を見合わせた。
虎皇館という檻の中で「勝つための部品」だった頃には、決して見ることのできなかった景色。自分たちは今、単にリーグを駆け上がっているのではない。一振りごとに、この会場に自分たちの居場所を刻み込んでいるのだ。
その光景を、成瀬康介は少し離れた場所から、目を細めて見守っていた。
「……いい顔になった」
だが、その視線の先――。
はるか上方のAリーグコート。
そこでは虎皇館が、一切の交流を拒絶したまま、機械のような精密さで対戦相手を「蹂躙」し続けていた。




