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第17話:返礼

 試合会場へと戻る通路。

 一つ上の、Fリーグのコートへ向かおうとする五人の前に、一人の少年が立ち塞がった。

 肩を上下させ、まだ荒い呼吸を整えようとしている。垂れ(名札)には『青原中』の文字。一回戦、瞬たちが圧倒した最初の相手だった。

 しゅんが身構えるより早く、その少年は深く、直角に頭を下げた。

「あの……さっきは、ありがとうございました!」

 予期せぬ言葉に、五人の足が止まった。

「……あっ、一回戦の……」

 瞬が戸惑いながら声を出す。少年の顔には、負けた悔しさよりも、何か大きなものに触れた後のような、清々しい高揚感が浮かんでいた。

「皆さん、凄く強くてびっくりしました。でも……僕らみたいなの相手に、一度も手を抜かず、真剣に打ってくれた。それが嬉しくて。一言、お礼が言いたかったんです」

 それは、先ほどまで虎皇館の影に怯えていた自分たちが、誰かにとっては「目指すべき光」であったことを突きつけるものだった。

「……こっちこそ。挨拶もせずに去って、ごめん。まだ、慣れてなくて。……試合、ありがとうございました」

「はい! 頑張ってください。……応援しています!」

 去りゆく青原中の背中を見送りながら、佐伯さえきが眼鏡の縁を指先で押し上げた。

「……浮かれていましたね、私たちは」

「挨拶もしないなんて、失礼なことをしちゃったね」

 りんの声には、先ほどまで向けられていた怒りとは別の、自省の色が混じっている。

 守屋もりやは、自分の拳を静かに見つめた。

「……前は、挨拶されるのが当たり前だと思ってた。もう一度、やり直さないとな」

 瞬は、自分の足元を見た。先ほどまで震えていた膝は、いつの間にか止まっている。

「よし。……試合をしてくれた全部のチームに、挨拶に行こう」

「そうだな」

 大吾だいごが力強く頷き、瞬の背中を叩いた。

 重く澱んでいた空気が、一気に透き通っていく。

 自分たちは「ゴミ」でもなければ、「抜け殻」でもない。誰かの誇りを背負って戦う、一人の剣士なのだ。

 明鏡館、五人の進撃が、真の意味で始まった。

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