表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/24

第16話:澱(よど)み

 観覧席の隅。

 佐伯さえきから渡されたスポーツドリンクを口に含み、りんは静かに呼吸を整えていた。そこに、康介こうすけが合流する。

「調子は良いみたいだな。次のリーグまでしっかり休め」

 その時、周囲の空気が一変した。

 波が引くように人混みが割れ、白いジャージを纏った一団が現れる。王者、虎皇館。

 その中央を歩く男――大河内と、康介の視線が交差した。

 康介は無言のまま、かつての先輩へ深く頭を下げる。それは屈服ではなく、かつて同じ高みを目指した者への、乾いた礼節だった。

 大河内は足を止めず、すれ違いざまに吐き捨てた。

「ゴミ拾いか。……下位リーグがお似合いだな、成瀬」

 その声は驚くほど平坦で、慈悲の欠片もなかった。

 康介は頭を下げたまま、何も言い返さない。ただ、握りしめた拳だけが、微かに震えていた。

 凛は、その光景を横で見ていた。

 父が侮辱され、それでも教え子のために沈黙を守る姿を。彼女の瞳には、射抜くような鋭い光が宿っていた。

 去りゆく大河内の背中に、凛の視線が突き刺さる。大河内が僅かに足を止めたように見えたが、彼は振り返ることなく雑踏の中へ消えた。

 数分後。通路から戻ってきたしゅん大吾だいご守屋もりやの三人が合流した。

 瞬の膝は、自分の意志とは無関係に小刻みに震えている。五人の間に流れるのは、先ほどまでの快進撃を忘れさせるような、冷たい沈黙だった。

 その中心で、康介は顔を上げ、静かに口を開いた。

「……答えは一つじゃない。行くぞ、次の試合だ」

 肌を撫でるのは、使い込まれた防具の匂いと、抗いようのない格差の感触。

 それでも、五人の足は再び試合場へと向かい始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ