第15話:不気味な均衡
Gリーグの全試合を圧倒し、明鏡館の瞬、大吾、守屋の三人は通路を歩いていた。
「次のリーグまで時間あるから、他の試合見に行こうぜ」
大吾が意気揚々と進むその背中に、周囲の視線が突き刺さる。「Gリーグに規格外のチームがいる」という噂は、既に会場を駆け巡り始めていた。
だが、ある一点を境に、周囲のざわめきが急速に引いていった。
通路の向こうから白い集団、王者・虎皇館が歩いてくる。
中央を歩く主将・鷹司の放つ空気は、周囲を威圧するというより、寄せ付けない拒絶に近いものだった。
明鏡館の前で、その足が止まった。
「……っ!」
守屋の肩が、不自然に強張る。
虎皇館の副主将・大月が、怪訝な顔で口を開く。
「守屋か……。そんな所で何をしている」
鷹司がわずかな手つきでそれを制した。彼は守屋に視線を向けることもなく、淡々と事実だけを告げた。
「……守屋。先生が、芳名板からお前の名前を消した。お前はもう、俺たちの関わる存在じゃない」
守屋が、悔しさに唇を噛みしめる。
「……なんだと!?」
瞬が思わず一歩、前に出た。
その瞬間、鷹司の視線が初めて、真っ向から瞬を射抜いた。
瞬の心臓が、跳ねるように脈打つ。
(……この目だ)
あの日、あまりにも圧倒的な実力に恐れ、不様な敗北を晒した時に浴びた冷たい視線。
一瞬、膝が折れそうになる。足の裏が地面から離れてしまうような、嫌な浮遊感が瞬を襲う。
だが、瞬は逃げなかった。ガタつく膝を無理やり固定するように、床を強く踏みしめる。
かつての恐怖が波のように押し寄せるが、それを今の自分のプライドが必死に押し返していた。睨み返そうとするが、相手の圧倒的な落ち着きを前に、自分の呼吸だけが荒くなっていくのがわかる。
その沈黙を、大吾の分厚い掌が叩き割った。
瞬の肩をグイと引き寄せ、大吾が不敵に笑う。
「行き着く先は同じだ。せいぜいそこで待ってろ」
鷹司の顔には、微かな嘲笑さえ浮かばなかった。
彼は瞬を「ライバル」としてではなく、ただの「道端の石」でも見るかのように視線を外し、再び歩き出した。
「身の程を知れ」
吐き捨てられた言葉に、瞬は奥歯が鳴るほど強く噛み締めた。
鷹司たちが去った後、瞬の手のひらには、自分でも驚くほどの汗が滲んでいた。
だが、あの日と違うのは、その震えが「逃げたい恐怖」ではなく、「届かない悔しさ」から来るものだということだった。




