第14話:最底辺からの地鳴り
会場は数百人の剣士が放つ熱気に満ちていた。
一番奥のAリーグコートでは、虎皇館が機械のような精密さで相手を蹂躙し、観客の視線を独占している。
一方、会場の隅。
誰も見向きもしないGリーグのコートに、藍色の胴着に身を包んだ明鏡館が現れた。
「明鏡館? どこだそこ」
「あの女の子、成瀬先生の娘じゃないか?」
「おい、あいつ……どこかで見たことあるぞ」
ざわつく周囲。大吾が守屋の肩を叩く。
「守屋、お前に気づいてる奴がいるな。お前の剣道がどう変わったか、見せつけてやろうぜ」
「先鋒、前へ!」
瞬が立ち上がる。礼をし、一歩踏み出した瞬間、極度の緊張から世界の音が消えた。
(ヤバい……自分の足じゃないみたいだ。フワフワする……)
蹲踞し、審判の宣告を待つ。
「はじめ!!」
相手が鋭く間合いを詰めてくる。
瞬は焦った。(ちょっと待て! まだ準備が――!)
相手の竹刀が振りかぶられる。
その軌道が、スローモーションのように瞬の網膜に焼き付いた。
(……あれ? なんで、こんなにゆっくりなんだ?)
バックステップ一つで、相手の必死の一撃が空を切る。
続く二段、三段。相手の攻撃は、明鏡館での「過酷な稽古」に比べれば、止まって見えるほどに稚拙だった。
成瀬康介の指導。そして凛、佐伯、大吾、元虎皇館の守屋。
化け物じみた連中と毎日剣先を交えてきた瞬の感覚は、知らぬ間に凡百の剣士を凌駕していたのだ。
「瞬、いつまで逃げてるんだよ!」
大吾の怒鳴り声で、瞬の意識が現実とリンクする。
「逃げてねぇよ!!」
瞬の身体が、爆発的な推進力で弾けた。
床を蹴る音が、Gリーグのコートに似つかわしくない重低音を響かせる。
「――――ッ!!」
裂帛の気合と共に放たれたのは、最短距離を射抜く真正面からの面。
「面あり!!」
審判の旗が、迷いなく三本上がった。
周囲のチームが、何が起きたのか分からず静まり返る。
瞬は自分の掌を見つめた。
(動く……。身体が、勝手に動くぞ!)
そこからは、一方的な蹂躙だった。
瞬は攻めるだけで怯える相手の隙を見逃さず、二本目も一瞬で仕留めた。
「俺は……強くなってる!!」
戻ってきた瞬を、凛が呆れたように、けれど誇らしげに迎える。
「何言ってんの、当たり前でしょ。さっさとこのリーグ、抜けるわよ」
次鋒・凛。流麗な足さばきから、相手の反応を許さない神速の小手。
中堅・佐伯。眼鏡の奥で全てを計算し、相手の打突を無に帰す芸術的な応じ技。
副将・守屋。たった二振りの「重い」面で、虎皇館の影を振り払い勝負を決める。
大将・大吾。野獣のような咆哮と共に、相手を気圧だけで飲み込む圧倒的な面。
誰も見向きもしなかった最下層リーグに、突如として**「昇る龍」**が現れた。
その衝撃は、さざ波のように、Aリーグの強豪たちの元へと広がり始めていた。




