第13話:ピラミッドの底から咆哮を
明鏡館に五人の声が揃ってから、数週間が経った。
ある日の稽古後、成瀬康介が一枚のプリントを広げた。
「五人揃った。そろそろ『外の風』を浴びにいくか。週末の錬成会にエントリーしたぞ」
初めての対外試合。
瞬の背中を、武者震いとも違う鋭い緊張が走り抜ける。
守屋がそのプリントを覗き込み、少し意外そうな、そしてどこか懐かしむような顔をした。
「……成瀬先生、これ『昇格戦形式』の錬成会ですね」
守屋はプリントの余白をなぞるように、リーグの構造を指し示した。
「会場にはAからGまでランク分けされたリーグがある。僕たちは実績ゼロだから、一番下の『Gリーグ』スタートだ。虎皇館みたいな強豪は、一番上の『Aリーグ』にどっしり構えて、上位校同士で高みの見物をしているよ」
「GからA……。ピラミッドの底からてっぺんか。遠いな」
瞬が呟くと、守屋は不敵に、けれど少しだけ悲しそうに笑った。
「一日でAまで辿り着くのは、物理的に不可能だ。でも――僕たちの名前を、会場中に知らしめることはできる」
*
当日の朝。
成瀬の運転するワゴン車は、緊張とポテトチップスの匂いに包まれていた。
瞬は顔を強張らせながらも、隣で繰り広げられる「遠足」に耐えかねていた。
「ポテチ食べる?」
遥が無造作に袋を差し出す。
「いただきまーす」
凛が手を伸ばし、大吾と守屋が「俺も!」「僕も欲しいな」と続く。
「『ポテトチップス』と正確に言いなさい。……ムシャムシャ」
眼鏡を光らせながら咀嚼する佐伯。
「……なんで母さんがいるんだよ! 遠足じゃねーぞ!」
瞬の絶叫が車内に響く。
「何言ってんのよ。このデコボコチームの初陣なんてイベント、見逃すわけないでしょ。ほら、チョコもあるわよ」
「いらねぇよ! 緊張で喉通らねぇんだよ!」
不貞腐れて窓の外を見る瞬に、康介がバックミラー越しに目を細めた。
「はっはっは、そんなに緊張するな。瞬、お前はこの数ヶ月で見違えるほど成長した。楽しむんだよ」
「楽しむ……?」
その瞬間、瞬の脳裏に、あの古ぼけたスポ少時代の老師の顔が浮かんだ。
『楽しむんじゃよ、瞬』
(……おんなじこと言ってる)
その不思議な一致が、瞬の心の刺を、少しだけ丸くした。




