第147話:過去との決別、再生の一歩
中堅戦の死闘を称える惜しみない拍手が鳴り響く中、守屋は静かに動き出した。
試合場へと歩みを進める彼の視線の先には、かつて自分が座っていた場所に、当然のような顔をして馴染んでいる男が立っている。
元・尚武道場の加治屋。
かつて同じ決勝の舞台で守屋を叩き伏せ、彼を絶望の淵へと追いやった宿命の相手だ。
しかし、今の守屋の背中には、あの時のような孤独な怯えはない。
康介に救われ、仲間と共に磨き上げてきた『絆』という名の確かな熱が、その背を力強く押し出していた。
一方、虎皇館陣営。
「また、突き落としてやりますよ」
無言で座る大月の傍らを通り過ぎる際、加治屋は残酷な笑みを浮かべて言い放った。
いつもなら頼もしく感じていたはずのその言葉が、今の大河内の耳には、ひどく虚しく、色褪せたものに聞こえていた。
大河内の視線は、真っ直ぐに守屋を見つめていた。
かつて自分が「ゴミ」と吐き捨て、追い出した少年。
明鏡館の道着を纏ったその姿は、虎皇館にいた頃の影を完全に脱ぎ捨て、一人の剣士としての静かな、だが消えない熱を帯びている。
立礼の位置に立つ、二人。
「お前じゃ、一生俺には勝てねえよ」
加治屋は勝利を確信した傲慢な目で守屋を射抜き、形式的な礼をした。
対する守屋は、静かに、一点の曇りもない瞳で加治屋を見つめ、静かに頭を下げる。
「加治屋、お前のおかげで俺は今、ここに立っている。……感謝してるぞ」
その言葉に、憎しみや棘はなかった。
ただ、己の過去すべてを受け入れた者だけが持つ、肯定感だけが宿っていた。
「始め!」
審判の鋭い号令と共に、守屋の長い冬を終わらせる、最後の戦いが幕を開けた。




