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第145話:実と実、魂の邂逅
鎬を削り合う攻防の中、突如として佐伯の右足が止まった。
それは、停滞ではない。
「攻め」や「誘い」によって相手の「虚」を突く、あらゆる小細工を捨て去った証。
佐伯は、己の全てを曝け出す「実」での勝負に切り替えたのだ。
その異変を、大月は肌が焦げるような熱量で察知した。
佐伯が、わずか数センチ、前へ出る。
その瞬間、大月は佐伯の身体が巨大な壁のように膨れ上がる錯覚に陥った。
かつて、高名な剣士であった父の懐へ、必死に掛かっていった幼き日の記憶が鮮烈に蘇る。
大月の決意と同時に、凍てついていた瞳に一筋の光が宿った。
冷徹な、勝ちを重ねるだけの道具としての仮面が剥がれ落ちる。
ただ一人の求道者として、父のような強者へ挑む歓喜が、その胸を激しく焦がした。
もはや、小細工など無用。
互いの剣先が中結を超え、間合いが死線を超えたその時――。
二人の身体が、同時に弾けた。
一分の迷いもない、真正面からの激突。
――静寂を切り裂く乾いた打突音と共に、三本の赤旗が、鮮やかに跳ね上がった。
勝負を制したのは、大月。
感情を取り戻し、自分より上の剣士へ挑む「捨て身」の一撃が、佐伯の「渾身」を、僅かに凌駕していた。




