第141話:嵐の果て、繋がる意志
「勝負!」
審判の鋭い声が響く。
会場は、これまでの激闘で熱気に包まれていた。
一本を奪い返し、勢いに乗る凛。
一方、絶対の自信を持っていた「誘いからの小手」を破られ、『迷い』が生じる樋口。
(……こいつ……二本目を取りに来やがった!)
樋口の竹刀が、凛の剣先を捌ききれない。
大河内監督の「二本取れ」という命令が、もはや物理的に不可能であることを、樋口は悟りつつあった。
対する凛は、かつてないほどに研ぎ澄まされていた。
樋口の剣先に、迷いが観える。
凛はその微かな揺らぎさえも、観逃さない。
凛の剣先が、樋口の中心を割って入る。
(攻め込んだ!!)
明鏡館の陣営が、前のめりになる。
凛の剣先はそのまま、樋口の面へ狙いを定める。
――激しい摩擦音が、鋭く走った。
間一髪、首を捻った樋口の左面を、凛の竹刀が掠める。
樋口はなりふり構わず、鍔迫り合いに持ち込もうと身体を密着させた。
王者のプライドを捨ててでも、この「小さな脅威」の勢いを潰そうとする執念。
しかし、凛はその執念さえも、真っ向から叩き伏せる。
樋口の身体を受け止め、その圧力の勢いを利用して後ろに飛ぶ。
それと同時に放たれる、鋭烈な『引き面』。
手首のスナップを利かせた鋭い剣先が、樋口の面金を捉えた。
主審の白旗が上がる。
――だが、副審二人がそれを取り消す。
「惜しい!!」
中村の声が、後ろから響いた。
凛の勇姿が、中村の心を激しく震わせる。
瞬きさえ許されない、凛の技が流れるように炸裂していく。
――その時、無情にも試合終了を告げる笛が鳴り響いた。
「引き分け!」
主審の旗が、空中で交差する。
一瞬の静寂の後、会場を揺らすような拍手が沸き起こった。
樋口は苦虫を噛み潰したような顔で、一言も発さずに陣営へと戻る。
明鏡館の陣営に戻った凛を、康介が、瞬が、そして中村が最高の笑顔で迎えた。
「凛、よくやった。……最高のタスキだ」
康介の言葉に、凛の目から初めて安堵の涙が溢れそうになる。
スコアは、明鏡館の一勝一分け。
絶対王者が、ついに追い詰められようとしていた。




