第140話:無念を越える一閃、逆襲の面
片膝を付き、丁寧に竹刀を拾う凛。
しかし、竹刀を取る手は強く握り締めていた。
油断した訳ではない。
初めて経験した『巻き技』へ対応出来なかった自分への憤りがあった。
(あなたは強い……卑怯だとは思わない。だけど……私の剣道はあなたの剣道とは違う事を教えてあげるわ)
凛の心が、静かに燃え上がる。
「二本目!」
後のない凛。
対する樋口は、先ほどの一本で「凛の底」が見えたと確信し、大河内の命令を遂行する為に、さらに冷徹に間合いを詰める。
樋口の剣先が、凛の竹刀の下――その鍔元へと鋭く潜り込んだ。
(二本目を貰う…)
誘いに乗り、がら空きになった樋口の面を狙おうと腕を上げる凛。
「打っちゃダメッ!!」
明鏡館の後ろで、中村が悲痛な叫びを上げた。
それは、準決勝で自分が樋口に小手を拾われた時と全く同じ、逃れられぬ罠の軌道。
仁明館のメンバーにも、あの時の絶望的な戦慄が走った。
だが、その時だった。
樋口の剣先が凛の小手を射抜くよりわずかに早く、凛は天を仰ぐように肩から大きく竹刀を振りかぶった。
――空を切る、樋口の剣先。
目標を失い、行き場をなくした樋口の竹刀が虚空を彷徨う。
次の瞬間。
無防備となった樋口の脳天に、凛の魂を乗せた一撃が真っ向から振り下ろされた。
「面あり!」
静まり返った会場に、審判の声が木霊する。
中村の無念を、チームの想いをその細い腕に宿した凛の竹刀は、王者の冷徹さを真っ二つに引き裂いていた。




