第137話:観の目、魂の一閃
「勝負!」
審判の宣告が静寂を切り裂き、運命の三本目が幕を開けた。
(まぐれ当たりか……それとも……)
藤田は爪先でリズムを刻みながら、獲物を品定めするように間合いを詰め、再び閃光のような連撃を叩き込む。
だが、今度は違う。
瞬の反応を極限まで警戒し、隙を一切排除した、虎皇館の「完璧な」打突。
しかし、その刹那。
瞬の竹刀が最短距離を通り、藤田の面金を鋭く叩いた。
(ちっ……まぐれじゃねぇのか!)
藤田は即座に距離を取り、忌々しげに舌打ちをする。
対照的に、瞬の胸には確かな手応えが宿っていた。
(いける……。この構えなら、藤田のスピードを捉えられる!)
確信と共に攻め入る瞬。
だが、追い詰められた藤田の本性が牙を剥く。
藤田は軽快なステップで瞬の『攻め』をいなし、決して自分の間合いに入らせない。
逃げているのか――瞬がそう直感した瞬間、藤田の背中が不自然なほど反り返った。
それは今までとは一線を画す、全身の筋肉を極限まで張り詰めた「人外の発射台」だった。
予備動作を排除した、全身のバネによる超速の小手が瞬の鍔を弾く。
藤田が動き出してからでは、もう手遅れなのだ。
(反応できない――!)
瞬の脳がフル回転し、絶望の中で解を模索する。
その時、脳裏をよぎったのは、共に汗を流してきた凛の言葉だった。
『相手が「打ちたい」ってそわそわしてる雰囲気……伝わってこない?』
(――そうだ。『見る』んじゃない。『観る』んだ!)
瞬が覚悟を決めた、その瞬間。
「これで……終わりだ!!」
藤田の目が、獲物を捕らえる獣のように見開かれた。
だが、瞬はその「殺気」を観た刹那、すでに前へと跳んでいた。
背中には、これまで刃を交えたライバルたちの想いが、康介の教えが、そして仲間の信じる声が、見えない追い風となって瞬を押し上げていた。
藤田の筋肉が、爆発した。
超長距離から放たれた、回避不能の速射砲。
しかし――あまりの速さゆえに、藤田の面は、すでにそこにあった瞬の竹刀へと、自ら吸い込まれるように激突した。
激しい衝撃音が、武道館の空気を粉砕する。
崩れ落ちる藤田は、膝をついたまま、何が起きたのか理解できず天を仰いだ。
その脳が「敗北」を認識するよりも早く、審判の旗が鮮やかに跳ね上がる。
「面あり!!」
腹の底から絞り出された宣告が、地鳴りのような歓声へと変わる。
先鋒戦、決着。
絶望の底から這い上がった瞬が、明鏡館に、最高の勝利という名のタスキを繋ぎ寄せた。




