第136話:無心の構え、刹那の閃光】
一本先取され、崖っぷちに追い込まれた瞬。
その重い足取りを、鋭い一喝が繋ぎ止めた。
「桐谷、構えを崩すなッ!」
それは、藤田に二度敗れ、その恐ろしさを誰よりも知る仁明館の先鋒の声だった。
刹那、瞬の脳裏に師・康介の言葉が蘇る。
『攻める、打つ、応じる、守る……全ての動きに最適な状態。それが基本の構えだ』
(最適な……状態……)
瞬の瞳に、再び静かな光が宿った。
絶望に震えていた心が、一点の曇りもない「構え」へと収束していく。
(俺はまだ……自分の剣道を見せていない!)
「二本目!」
宣告と同時に、瞬は地を踏みしめた。
苦しい夜を幾度も越えて磨き上げた足捌きを土台に、堂々と間合いを詰めていく。
(二本目も、すぐに終わらせてやる!)
藤田が再び、閃光のような打突を繰り出す。
しかし、瞬の正中線を貫く竹刀が強固な壁となり、その軌道をわずかに、だが確実に逸らしていく。
――思考の省略。
考えるより先に、身体が、魂が動いた。
藤田が面を打ち抜こうと、拳を上げたその瞬間。
無心の攻めから放たれた出小手が、吸い込まれるように藤田の腕を捉えた。
乾いた音が、静まり返った会場に炸裂する。
「小手あり!」
審判の旗が、白一色に染まる。
地鳴りのような歓声の中、藤田の顔が初めて驚愕と焦燥に歪んだ。
(今の反応は……何だ!?)
無意識の領域。
瞬が、ついに怪物の背中を捉えた。




