第133話:正道の証明、決別の進軍
武道館にアナウンスが鳴り響く。
『選手は決勝戦の準備をして下さい』
会場のすべての視線が、第一試合場へと一点に集まった。
正面に向かって右側、赤の陣に立つのは大河内率いる虎皇館の五人。
「お前たちが負けることなどあり得ん。いつも通りだ、勝ってこい」
「「「はい!!!」」」
その後ろには、新免たちBチームを筆頭に、虎皇館の門下生たちが規律正しく並んでいる。
対するは左側、白の陣。
成瀬康介と、明鏡館の五人。
五人は整列し、一礼を交わすと――
流れるような美しい所作で面と竹刀を置き、正座した。
その一寸の乱れもない姿に、大河内は思わず目を奪われる。
「……美しい……」
呟いた自分にハッとする大河内。
(私は何を言っているんだ……全て、打ち砕いてくれる!)
彼は怒りを上書きするように、明鏡館の背後に並ぶ仁明館、蒼龍館、暁武、叢雲の面々を鬼の形相で睨みつけた。
その時だった。
虎皇館の列から、新免が静かに歩み出た。
「大河内先生。私は……明鏡館を応援します」
想像だにしなかった言葉に、大河内の顔が衝撃に歪む。
「血迷ったか! 自分が何を言っているのか分かっているのか!」
大河内の怒りは震えるほどだったが、新免の瞳はどこまでも澄んでいた。
「今までお世話になりました。ですが私は……自分の道を進みます」
新免は深く一礼し、戸惑う門下生たちに向き直って告げた。
「お前たちも、自分の心に、正しいと感じた道を進め」
迷いのない足取りで、明鏡館側へと歩き出す新免。
それを皮切りに、Bチームの大将が立ち上がった。
「俺はあいつを倒さねぇと気が済まない」
大吾を睨み、新免の後を追う。
次々と列を離れ、明鏡館の背後へと加わっていく門下生たち。
「おい! 待て! 戻れ!」
大河内の叫びは、もはや誰の耳にも届かなかった。
「新免、お前……」
驚く守屋に対し、新免は晴れやかな笑みを浮かべた。
「言ったはずですよ。明鏡館を応援すると」
その光景を横で見つめていた最強の男・鷹司は、自身の内に芽生えた正体不明の苦しさに戸惑っていた。
(身体は動く……なのに何故だ。胸が、苦しい……)
かつて感じたことのない憧憬が、彼の冷徹な心を激しく揺さぶり始めていた。
『――これより、決勝戦を行います』
会場のざわめきが、一瞬で静まり返る。
「赤、虎皇館道場」
前に進み出る五人。
「白、明鏡館道場」
それと同時に、地鳴りのような拍手が武道館を揺らした。
明鏡館の背後には、かつての宿敵たちと、自らの意思で歩み出した元門下生たち。
さらに観客席では仁明館の門下生、青原中、そして錬成会で刃を交えた無数のチームが立ち上がっている。
会場にいるすべての剣士たちの想いが、明鏡館の五人を高みへと押し上げていた。
審判の声が、静寂を切り裂く。
「正面に、礼!」
「相互に、礼!」
大吾が、腹の底から咆哮した。
「いくぞ!!」
「「「おう!!!」」」
絆と孤独、正道と覇道。
すべてに決着をつける宿命の幕が、ついに上がった。




