第132話:背負う想い、集う魂
決勝進出を決めた明鏡館の面々は、その喜びよりも――
仁明館が敗北したという事実に、言葉を失っていた。
零勝四敗。
あの不屈の仁明館が、手も足も出ずに呑み込まれた。
そのあまりに冷酷なスコアが、虎皇館の底知れなさを物語っていた。
「あの仁明館が……負けた……」
瞬だけでなく、全員がその現実を咀嚼できずにいた。
そこへ、おぼつかない足取りで道具を片付け終えた仁明館の五人が、監督と話し終えた後、静かに駆け寄ってきた。
皆、これから大勝負に挑む明鏡館を気遣い、必死に涙を拭った跡がある。
「決勝、頑張ってな! 応援しとるから!」
加賀谷が、努めて明るく振る舞う。
「おう、当たり前だ。絶対優勝してやるぜ!」
大吾の力強い言葉に、凛が優しく続けた。
「仁明館の試合、隣で見てたよ……。凄かった。みんなの分まで、私たちが頑張るから」
その言葉が、引き金だった。
次鋒の中村の瞳から、堪えていた涙が溢れ出した。
「あっ……ごめん……これから決勝なのに……約束したのに……。決勝で会おうって、約束したのに……!」
中村を抱きしめる凛。
毅然としていた加賀谷も、ついに喉を詰まらせ、大粒の涙を流した。
「精一杯やった……全力を尽くして負けたんだから、悔いはない。……だけど……やっぱり、負けるのは悔しい……!」
仲間と共に情熱を燃やし、正道を信じてきたからこそ、その無念を押し殺すことはできなかった。
「俺たちは仲間だ。仁明館の想いも乗せて、勝って見せる。見ててくれ!」
瞬の叫びに、仁明館の五人は深く、深く頷いた。
そこへ、蒼龍館の監督が康介の元へ歩み寄る。
大河内との複雑な関係上、表立って応援できない立場であることを、康介は理解していた。
「参りました。決勝、頑張ってください。……我々は少し離れたところから、拝見させていただきます」
だが、その背中に蒼龍館の大将が声を上げた。
「先生、俺たちは明鏡館を応援させてください!」
「俺たちに勝った相手なんですから、優勝してもらわないと困ります」
先鋒の少年の言葉に、監督は驚き、やがて晴れやかな顔で頷いた。
「お前たちがそんなことを言うとはな……。よし、明鏡館の後ろに並べ!」
それを合図に、敗れていった者たちが次々と第一試合場に集結し始めた。
「お前達を一番苦しめたのは俺達だ。事実上の決勝戦だったと言わせろよ!」
不敵に笑う暁武剣士会のメンバーに、守屋が「言わせてみせるさ」と答える。
「虎皇館相手にどれだけできるか、見届けさせてもらうぞ」
叢雲道場の言葉に、佐伯が、
「あなたたちの名前を落とさないようにしないといけませんね」
と、静かに闘志を燃やす。
会場の空気は、完全に塗り替えられた。
孤独な勝利を至上とする虎皇館。
対する明鏡館の背後には、かつて剣を交えたライバルたちの「祈り」に似た叫びが重なっていた。
その巨大な熱量の中心で、康介が五人を呼び寄せた。
「こりゃあ、負けるわけにはいかんな」
康介の不敵な笑みに、五人もまた口元を上げる。
背負った想いは重くない。
それは今、彼らを高みへと押し上げる「翼」に変わっていた。
「俺から言う言葉は、いつも通りだ」
康介が、師としての真剣な眼差しで五人を射抜く。
「お前たちの剣道を見せてやれ!」
「「「はい!!!」」」
五人の咆哮が一つになり、武道館の天井を突き抜けた。




