第128話:大将の矜持、怪物の誘い
第二試合場。
蒼龍館の要である大将が、静かに試合場へと向かう。
その瞳には、敗北が決した絶望ではなく、「このままでは終わらせない」という悲壮なまでの決意が宿っていた。
対するは、明鏡館の大将・大吾。
チームの勝利は確定している。だが、強者を求めるその心に一点の陰りもなかった。
(さあ……お前のすべてを、俺にぶつけてみろ)
大吾は深く気合いを込め、礼を交わす。
「始め!」
審判の号令と共に、両者の腹の底から響く咆哮がぶつかり合った。
とても勝敗が決した後の試合とは思えない、命を削り合うような気位の応酬。
大吾の凄まじい圧力に対し、蒼龍館の大将は一歩も引かずに正面から激突する。
(そうだ……それでこそ、蒼龍館の大将だ)
教え子の最後の勇姿を、監督は一時も目を離さず、その目に焼き付けていた。
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一方、第一試合場。
そこには第二試合場の喧騒とは対極の、静寂があった。
二度目の対戦となる加賀谷と鷹司。
前回の対戦では、先鋒の負けを追う加賀谷が怒涛の攻めを見せ、鷹司がそれをすべて前で捌ききっての引き分けだった。
だが、今回の顔合わせは純粋な「個」の激突。どちらが真に強いのかを問う、剥き出しの真剣勝負だ。
互いの竹刀が、相手の心を揺さぶるべく中心を激しく取り合う。
初太刀こそないものの、そこには静かで、しかし狂気すら孕んだ攻防が続いていた。
先に「打ち気」を見せた方が、その瞬間に敗北する。二人は一度の対戦を通じ、互いの実力を誰よりも理解していた。
加賀谷が中心を取れば、鷹司はわずかに間合いを切る。
鷹司が中心を取ろうとすれば、加賀谷の竹刀が上から封じ込めるように攻め返す。
傍目には、徐々に加賀谷の攻めが鷹司を追い詰めているように見えた。
観客席では、宇佐美と裕一がその光景を凝視していた。
「わずかに……加賀谷君が攻め勝っているように見えますが……」
裕一の呟きに、宇佐美は怪訝そうに眉をひそめた。
「おかしい……。前回、鷹司は一歩も下がらずに捌ききった。あの男が、これほど容易に中心を譲るはずがない……」
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ついに加賀谷の攻めが、鷹司の竹刀を抑え込むようにして中心を完全に制した。
(攻めきった!)
裕一が叫びそうになった、その刹那。
加賀谷の有利を誰もが確信した、まさにその瞬間だった。
――鷹司の身体が、弾かれたように前へ出た。
――パァーーン!!!
それは、まさに一瞬の出来事だった。
観客席からは、鷹司の面が完璧に決まったかのように見えた。
だが、審判の旗は一本も上がらない。
中心を死守していた加賀谷の竹刀が、わずかに鷹司の打突軌道をずらしていたのだ。
しかし。
「攻め勝った」と確信した瞬間に放たれた、目にも留まらぬ一撃。
加賀谷は、それに反応することすらできなかった。




