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第124話:正道の揺らぎ

第一試合場。

歓喜に沸く明鏡館めいきょうかんの隣で、仁明館じんめいかんは静かな地獄の中にいた。

中堅戦を終えて、二敗一分け。

この副将戦で白星を拾わなければ、大将・加賀谷かがやに繋ぐことすら叶わず、仁明館はここで終わる。

背水の陣の仁明館に立ちはだかるのは、大河内おおこうちがその実力を認めて引き抜いた男――副将・加治屋かじやだった。

鷹司たかつかさ、お前の見せ場はねえぜ。俺が決めてやる」

「勝ちの快楽」に取り憑かれ、かつての仲間を捨てて虎皇館こおうかんへと身を投じた男。

その剥き出しの闘争心が、仁明館の「絆」に牙を剥く。

「始め!」

---

審判の宣告と共に、仁明館サイドからは悲痛な祈りが漏れる。

(お願い……加賀谷まで、繋いで!)

中村茜なかむらあかねは祈るように、両手の指が白くなるほど固く組み合わせていた。

仁明館の副将は、高鳴る鼓動を抑え、自分に言い聞かせる。

(焦ったら相手の思う壺だ。仁明館の剣道を……舐めるな)

中心を貫く、教科書のような基本の構え。

自分を崩さず、一歩ずつ丁寧に間合いを詰めていく。

だが、対峙する加治屋の口元が、不気味に歪んだ。

(もう、お前らの手の内は見切ってんだよ)

加治屋の竹刀が、表から裏へ――まるで獲物を狙う蛇のようにしなり、相手の竹刀を這うようにして小手を狙う。

――パァン!

仁明館の副将のつばを叩く、硬い音が響いた。

(ちっ、もう少しずらさねえと当たらねえか)

加治屋は心の中で毒づく。

有効打突には至らないものの、その軌道は明らかに常軌を逸していた。

---

観客席では、はるかが思わず声を上げていた。

「なにあれ……今の、剣道なの?」

「手首の異常な柔らかさと強さを持っているな。腕を中心から外してでも、打突部位にねじ込んでくるぞ」

裕一ゆういちが苦い表情で説明する。

「当たれば、審判も旗を上げざるを得ないからな。……武道と、当てっこ競技の曖昧な境界線じゃよ」

宇佐美うさみが悲しげに呟いた。

仁明館の副将が「正しく」中心を取れば取るほど、加治屋は腕を横へ逃がし、手首の返しだけで強引に面や小手を捉えようとする。

理合りあいを無視した、しかし「当てる」ことに特化した異質の剣。

仁明館の副将は、これまで自分が信じてきた「正義」が、足元から崩れゆくような錯覚に陥っていた。

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