第121話:冷静と情熱の狭間
第一試合場。
仁明館対虎皇館の対局は、中堅戦へと入っていた。
先鋒の二本負けという重い足枷を背負う仁明館に対し、虎皇館の中堅・大月は、岩のように冷静だった。
(この男……確かに強い。だが、こちらが危険を冒しさえしなければ、負けはしない)
大月は、仁明館の中堅による必死の猛攻を、最小限の動きで危なげなく捌いていく。
焦りが生むわずかな隙を逃さず、剣先を喉元へ突きつける。
未だ有効打突には至っていないが、誰の目にも大月が試合を支配しているのは明らかだった。
観客席では、その様子を宇佐美が苦渋の表情で見つめていた。
「大月は、よく分かっておるの……。攻撃の瞬間こそが、最も危険な隙を生むということを」
「はい。相手の実力と、今の自分にできることを完璧に把握していますね」
裕一はそう答えながらも、頭の中では「大月対佐伯」のシミュレーションを繰り返していた。
(同じように相手を分析するタイプ同士……。だが、大月には並外れた運動能力も備わっている。もし対戦すれば、佐伯には分が悪いな……)
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その頃、第二試合場では蒼龍館対明鏡館の中堅戦が始まろうとしていた。
先鋒、次鋒と連敗し、完全に計算が狂った蒼龍館は、この中堅戦にすべてを賭けていた。
「頼むぞ!」
チームメイトの悲痛な想いを背負い、蒼龍館の中堅が決死の覚悟で白線に立つ。
(勝つ。必ず……!)
対峙する佐伯は、自分の心臓がかつてないほど高鳴っているのを感じていた。
(前の二人の熱意に、これほど勇気づけられるとは……。やれやれ、私も少し影響されすぎですね。冷静にならなければ)
蒼龍館という強敵を前に、勇気と無謀は似て非なるものであることを、彼は誰よりも理解していた。
眼鏡の奥、知性の宿る瞳がスッと細まる。
(頭は冷静に、心は熱く。……さあ、掛かってきなさい)
「はじめ!」
審判の宣告とともに、佐伯の決意を乗せた試合が開始された。




