第117話:円の理合
第一試合場では、早くも次鋒・中村と樋口の試合が始まろうとしていた。
「あの子の試合、ずっと見てましたが……いいですね。真っ直ぐな気持ちが伝わってきます」
裕一の言葉に、宇佐美が深く頷く。
「そうじゃろう。あの子は人一倍寂しがり屋でな。仲間のために一生懸命なんじゃ。地元の中学校では女子が少なくて団体戦が組めんかったから、わざわざうちの道場まで通ってきおった」
宇佐美の言葉に、裕一は納得したように目を細めた。
「厳武館との試合、彼女が取り返したからこそ、大将戦を五分で迎えられた。もしあの時、加賀谷くんが不利な状況で大和くんと対峙していたら……いくら彼でも、結果は分からなかったでしょうね」
かつての師弟として、また剣を愛する者同士としての会話を楽しみながらも、宇佐美が不意に視線を鋭くした。
「ほれ、息子の試合に集中せんか。……何かしようとしておるぞ」
裕一が第二試合場に目を戻すと、瞬の放つ圧力が、わずかに「緩んだ」ように見えた。
(ん? あれは……)
裕一の目が、勝負師のそれに変わる。
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第二試合場。
瞬と蒼龍館の先鋒は、チームに流れを引き寄せるべく、火花を散らすような間合いの削り合いを続けていた。
(コイツ……俺と出頭で勝負しに来てんのか。取れるもんなら取ってみやがれ!)
蒼龍館の先鋒は、瞬の圧力に一歩も退かない。
(コイツ……間合いを詰めれば、瞬時に打ってくる……)
瞬もまた、相手の刃物のような圧力に必死の抵抗を続けていた。
(それなら――!)
瞬が、鋭い踏み込みで攻めを一段階上げた。
その圧力の渦中で、瞬の剣先がわずかに甘くなった。
――その瞬間を、蒼龍館の先鋒は見逃さなかった。
得意の出頭面が、瞬の頭上をめがけて最短距離で飛び出す。
近間での、回避不能な一瞬。
直撃かと思われた刹那、瞬の竹刀が相手の竹刀を擦り上げるように「返し」、腰の回転をすべて剣速へ変換する。
摩擦も、迷いもない。
ただ一筋の閃光が、相手の胴を真っ向から両断した。
――パァンッ!!!
「胴あり!」
「よっしゃあああ!」
審判の宣告と同時に、大吾の咆哮が響き渡った。
息詰まる攻防の果て、あえて隙を見せて誘い出した、完璧なカウンター。
(ついに、自分のものにしたか……!)
康介は、心の中で静かに微笑んだ。
その後、蒼龍館の猛攻を死守して試合終了の笛が鳴る。
「勝負あり!」
先鋒戦を制したのは、明鏡館だった。




