第116話:連鎖する衝撃
観客席。
「両方、始まっちゃった……」
遥が祈るように胸の前で手を握りしめる。
「明鏡館は身内みたいなものじゃからな。どちらからも目が離せんわい」
隣に座る宇佐美が、深く腰掛け直してコートを凝視する。
その反対側では、裕一が背筋を伸ばし、戦況を冷静に見定めていた。
「虎皇館の先鋒は、強気ですね……。引けば一気に追い詰められる」
裕一の分析に、宇佐美が低く頷く。
「うむ。構えを崩されたら終わりじゃ。ウチの小僧も、そこは分かっているはずじゃが……」
その直後だった。
今まで「基本」を崩さず、前で勝負していた仁明館の先鋒が、藤田の放つ圧倒的な重圧に耐えかねて、わずか一歩下がり、守りに入った。
「いかん、崩れた」
宇佐美の声と同時だった。
防御姿勢を取った先鋒の、がら空きになった脇腹を、藤田の竹刀が鮮やかに切り裂く。
――パーンッ!!
「胴あり!」
審判の白旗が三本、即座に上がった。
「逆胴……。あの一瞬で打ち切れるとは」
裕一の目が薄くなる。
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その時、第二試合場で立礼の位置に移動する瞬の視界に、隣のコートで舞う白旗が飛び込んできた。
(取られた……!? まずいぞ、仁明館が……)
一瞬、動揺が脳裏をよぎる。
だが、瞬は即座に奥歯を噛み締め、雑念を振り払った。
(今は、自分の試合だ。チームのために集中しろ……!)
礼から蹲踞へ。
緊張感で肌がひりつく。
「はじめ!」
「……動かない」
遥が瞬の姿を凝視する。
瞬と蒼龍館の先鋒。
二人は微動だにせず、ただ竹刀を交差させているように見える。
「いや、あれはお互いに一歩も引く気がない証拠だ」
裕一が固唾を飲んで見守る中、二人はじりじりと間合いを詰め、剣先を削り合う。
その刹那。
パァーン――!
乾いた音が会場に響き渡った。
お互いが出頭を狙った、相面。
(コイツ……出頭を取りに来やがった!?)
驚愕に目を見開く蒼龍館の先鋒。
(一瞬でも遅れたらヤバかった……。守屋の言う通り、半端な動きは狙い打ちされる……)
瞬は初太刀で、相手の実力が想像以上の脅異であることを肌で感じ取った。
「初太刀から出頭を合わせるとは、どちらも相当な強気じゃな……」
感嘆する宇佐美の言葉に、裕一が我に返って隣のコートを振り返る。
「先鋒戦……どうなったんですか?」
宇佐美は残念そうに、首を振った。
「二本負けじゃ。あの藤田という小僧、止められん……」




