第109話:龍の咆哮、城を震わす
大会係員を務める虎皇館の若き指導者が、本部席に座る大河内の元へ足早に駆け寄った。
「大河内先生、第七試合場……叢雲道場と明鏡館の試合が始まりました」
「始まったか」
大河内は手元の資料に目を落としたまま、冷淡に言い放つ。
「早速だが、明鏡館には消えてもらおう。今年のチームは去年より力を落としてるとは言え、東の横綱と称される叢雲に勝てる道理などない。……力の差というものを、その身に刻ませてやれ」
大河内が、退屈そうにDブロックの試合場へ視線を向けた、その時だった。
「――ウォォリャァァーーッ!!」
鼓膜を突き破るような、魂を揺さぶる咆哮。
大河内の目に飛び込んできたのは、鋭い残身と共に、叢雲の先鋒を打ち破った瞬の姿だった。
「……何だと?」
大河内が眉をひそめる間もなく、続く次鋒戦。
小柄な凛が、体格差を物ともせず真っ向から竹刀を振り下ろし、相手を叩き伏せる。
「バカな……。こんなことが…」
大河内の喉が、驚愕で微かに震えた。
勢いは止まらない。中堅、副将と、明鏡館の銀色の刺繍が閃くたびに、東の横綱・叢雲の選手たちが次々と沈んでいく。
そして大将戦。大吾が、獲物を仕留める猛獣のような踏み込みから、とどめの一撃を放った。
――バァァァンッ!!
乾いた打突音が会場の喧騒を切り裂く。
「勝負あり!」
審判の鋭い宣告が響き渡った瞬間、それまで静観していたDブロックの選手たち、そして観客席から、地鳴りのような騒然とした空気が湧き上がった。
隣の試合場で出番を待っていたDブロックシード、暁武剣士会の選手が戦慄したように呟く。
「あの叢雲を、五対零だと……? あり得ない……」
大河内は、拳を握りしめたまま立ち尽くしていた。
そこには、かつて自分が「ゴミ」と切り捨てた守屋と共に、康介の教えを極限まで磨き上げた五人の「龍」が、牙を剥いて立っていた。
明鏡館の快進撃。それはまだ、始まったばかりだった。




