第106話:祈りを纏(まと)う
虎皇旗、前日。
決戦を翌日に控え、明鏡館の五人は静まり返った道場に集まっていた。
そこへ、康介が重そうな段ボール箱を二つ抱えて現れた。
「明日の準備だ。まずはこれを開けてみろ」
一つ目の箱には、新調された藍染の道着と袴が五人分、整然と収められていた。
その左腕には、銀色の糸で力強く**『明鏡館』**の刺繍が施されている。
「明日の試合は、これを着て戦え。お前たちの親御さんが、密かに用意してくれたものだ」
「……カッコいい」
大吾が吸い込まれるように呟き、凛がその生地をそっと撫でる。
「センスいいわね。……お母さん、いつの間に」
「死装束ですか……」
佐伯の物騒な言葉に、瞬が慌てて突っ込んだ。
「縁起でもないこと言うなよ! 早く袖を通したくてたまらないな」
「やっと……違う文字を、背負えるんだな」
守屋は銀色の刺繍をじっと見つめ、ゆっくりと目を閉じた。
*
「そして、これは俺からだ」
康介が二つ目の箱を開ける。
そこには、深い飴色の輝きを放つ**「生地胴」**が五つ、鎮座していた。
「生地胴……。先生のとお揃いじゃないですか!」
瞬の興奮した声に、凛が息を呑む。
「これ、お父さんが一番大切にしている胴と同じ色……」
「渋いぜ。俺たち、もう見た目だけなら全国レベルだな」
大吾の軽口に、道場の空気が少しだけ和らぐ。
喜ぶ五人の姿を、康介は慈しむような眼差しで見つめていた。
「昔はな、戦場へ向かう大切な人のために、衣装を用意したと聞く。『どうか無事に帰ってきますように』とな」
康介の言葉が、しんとした道場に響く。
五人はそれぞれの親の顔、支えてくれた人々の顔を思い浮かべた。
「お前たちは一人じゃない。家族、友人、そして俺。たくさんの想いを背負って、あの舞台に立つんだ。……試合に勝つことは『目標』であって、『目的』ではない。お前たちなら、その意味がもう分かっているはずだ」
親の祈りを、師の想いを、銀色の文字と共にその身に纏う。
五人の瞳に宿った光に、もはや迷いはなかった。




