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第105話:二龍、虎の尾を踏む

 季節は巡り、山々に白い吐息が混じる頃。

 町はずれの静かな道場、明鏡館に一通の封書が届けられた。

 それは、全国の強豪のみが手にする「虎皇旗こおうき争奪剣道錬成大会」への招待状だった。

 消印を見つめる康介こうすけの指先が、わずかに震える。

 だがその瞳には、かつてないほど鋭い炎が宿っていた。

「ついに来たか……。今の明鏡館なら、あの牙城を崩せる。待っていろよ、大河内」

 低く、地を這うような声。

 それは、弟子たちを教え、導き、守り抜いてきた男の静かなる「宣戦布告」だった。

     *

 同じ頃、仁明館じんめいかんにも、同様の封書が届いていた。

 老剣士・宇佐美うさみは、招待状を執務机に置くと、不敵な勝負師の顔で道場を見つめた。

「前回の雪辱、ここで晴らさせてもらうぞ。……優勝をさらうのは、この仁明館じゃ」

 二匹の龍が、今、静かに動き出した。

 それは「絶対王者」という名の虎の腹を、内側から食い破るための、決死の覚悟を秘めた潜行だった。

     *

――虎皇館こおうかん

 その巨大な「城」の最奥に鎮座する大河内おおこうちへ、若い指導者が恭しく報告を上げる。

「……虎皇旗の招待状、全道場へ発送し終えました」

「そうか。ついに来たか」

 大河内は重々しく口を開いた。

 その眼下には、門下生たちの悲鳴にも似た凄まじい発声が、地鳴りのように響いている。

「全国の強者を、我が城でもてなしてやろう。今年の虎皇館は、歴代最強だ。全て蹴散らして我が虎皇館の糧としてくれるわ」

 大河内の眼光が、獲物を狙う猛禽のように鋭く光る。

 因縁、執念、そして絆。

 それぞれの思いが複雑に交差する「虎皇旗」の幕が、今、劇的に上がろうとしていた。

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