表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
104/145

第103話:剣で語る、心で繋ぐ

 再び始まった、仁明館との対抗戦。

 椅子に腰掛ける宇佐美の隣で、康介は静かに正座し、弟子たちの試合を見守っていた。

「なるほどのぉ……こいつの剣道は、母親似じゃったか」

 宇佐美の言葉に、康介が深く頷く。

「前回の館長の教えを、一から叩き込みました。迷いが消え、気迫も前より良くなっています」

 瞬の粘り強い引き分けが、明鏡館の空気を変えた。一打に「基本」の重みが宿り、全員が必死に食らいつく。

 だが、大将戦――加賀谷の揺るぎない剣の前に、大吾は屈した。

「加賀谷に勝つのは、まだ難しいぞ」

「ええ。彼の剣道は、私にとっても最良の手本です。よく、ここまで育て上げられましたね」

「こいつはな、素直なんじゃ。素直すぎて純粋、と言っていい」

 宇佐美は目を細め、皮肉を交えて続けた。

「お前も、これくらい素直だったらもっと強くなっておったじゃろうな」

「……今からでも、間に合いますか?」

 康介の問いに、老剣士は不敵に笑った。

「剣で語ってみせろ。……さあ、稽古開始じゃ!」

 合同稽古の喧騒の中、康介が宇佐美に掛かっていく。

(成瀬先生が……息を上げている!?)

 瞬は、その光景に言葉を失った。

 自分たちが康介に挑む時と同じように、康介もまた、全身全霊で巨大な壁にぶつかっていた。

 宇佐美は自然体のまま、康介の打突を誘い出し、隙あらば鋭く打ち抜く。

 それは翻弄ではなく、弟子の持てる力をすべて引き出そうとする、慈愛に満ちた導きだった。

「これが、基本の極み……」

 無駄がなく、流れるように美しい宇佐美の剣道。

 明鏡館の五人は、その芸術的なまでの動きを網膜に焼き付けた。

 稽古の後。汗を流した両道場のメンバーは、自然と車座になっていた。

「加賀谷くん、ずっと聞きたかったんだ。試合中、相手のことをどんな風に思っているのか、教えてほしい」

 瞬の問いに、加賀谷は少し照れくさそうに笑って答えた。

「礼をする時に、感謝するじゃろ? だから俺は『あなたとの時間を大切にしますよ』って気持ちで戦うんじゃ。そうしたらな、相手が怖くなくなる。大切な人を怖がるなんて、おかしいじゃろ?」

 瞬の胸に、衝撃が走った。

 自分は「勝ってやろう」という執着ばかりを抱えていた。

「……凄いな。そんなこと、考えてたんだ」

「……それ、全部宇佐美館長の受け売りじゃけんね!」

 横からの中村の突っ込みに、「それは黙っといて!」と加賀谷が顔を赤くする。

 道場に、敵味方のない清々しい笑い声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【読者の皆様へ】 ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます! 本作は全160話完結済みです。 完結まで毎日2回(朝・夜)、欠かさず更新してまいります。 もし少しでも「続きが気になる」「瞬を応援したい」と感じていただけましたら、 **下の【ブックマークに追加】と、【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】**にして応援いただけると、執筆の大きな励みになります。 皆様の一票が、より多くの読者にこの物語を届ける力になります。 よろしくお願いいたします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ