第103話:剣で語る、心で繋ぐ
再び始まった、仁明館との対抗戦。
椅子に腰掛ける宇佐美の隣で、康介は静かに正座し、弟子たちの試合を見守っていた。
「なるほどのぉ……こいつの剣道は、母親似じゃったか」
宇佐美の言葉に、康介が深く頷く。
「前回の館長の教えを、一から叩き込みました。迷いが消え、気迫も前より良くなっています」
瞬の粘り強い引き分けが、明鏡館の空気を変えた。一打に「基本」の重みが宿り、全員が必死に食らいつく。
だが、大将戦――加賀谷の揺るぎない剣の前に、大吾は屈した。
「加賀谷に勝つのは、まだ難しいぞ」
「ええ。彼の剣道は、私にとっても最良の手本です。よく、ここまで育て上げられましたね」
「こいつはな、素直なんじゃ。素直すぎて純粋、と言っていい」
宇佐美は目を細め、皮肉を交えて続けた。
「お前も、これくらい素直だったらもっと強くなっておったじゃろうな」
「……今からでも、間に合いますか?」
康介の問いに、老剣士は不敵に笑った。
「剣で語ってみせろ。……さあ、稽古開始じゃ!」
合同稽古の喧騒の中、康介が宇佐美に掛かっていく。
(成瀬先生が……息を上げている!?)
瞬は、その光景に言葉を失った。
自分たちが康介に挑む時と同じように、康介もまた、全身全霊で巨大な壁にぶつかっていた。
宇佐美は自然体のまま、康介の打突を誘い出し、隙あらば鋭く打ち抜く。
それは翻弄ではなく、弟子の持てる力をすべて引き出そうとする、慈愛に満ちた導きだった。
「これが、基本の極み……」
無駄がなく、流れるように美しい宇佐美の剣道。
明鏡館の五人は、その芸術的なまでの動きを網膜に焼き付けた。
稽古の後。汗を流した両道場のメンバーは、自然と車座になっていた。
「加賀谷くん、ずっと聞きたかったんだ。試合中、相手のことをどんな風に思っているのか、教えてほしい」
瞬の問いに、加賀谷は少し照れくさそうに笑って答えた。
「礼をする時に、感謝するじゃろ? だから俺は『あなたとの時間を大切にしますよ』って気持ちで戦うんじゃ。そうしたらな、相手が怖くなくなる。大切な人を怖がるなんて、おかしいじゃろ?」
瞬の胸に、衝撃が走った。
自分は「勝ってやろう」という執着ばかりを抱えていた。
「……凄いな。そんなこと、考えてたんだ」
「……それ、全部宇佐美館長の受け売りじゃけんね!」
横からの中村の突っ込みに、「それは黙っといて!」と加賀谷が顔を赤くする。
道場に、敵味方のない清々しい笑い声が響き渡った。




