第102話:再会は嵐のように
高速道路を使った甲斐もあり、一行は稽古開始の前に仁明館へ到着した。
道場に一歩足を踏み入れると、最奥ではすでに防具を着けた宇佐美館長が、若い指導者たちと談笑していた。
今回は、もてなしの椅子も茶も用意されていない。
明鏡館の五人はもはや「お客様」ではなく、共に高みを目指す「同志」として迎え入れられたのだ。
準備をしていた中村が五人の姿に気づき、凛に向かって小さく手を振った。
凛もまた、引き締まった表情の中に柔らかな笑みを浮かべて応える。
「まずは、挨拶だ」
康介の言葉に促され、整列して進む五人。だが、その後ろをごく自然な足取りでついてくる影が一つ。
「母さん、まずいって! 端の方で大人しくしててよ」
瞬の制止も、遥にはどこ吹く風だ。
「宇佐美先生に会うって言ったでしょ? 挨拶くらいさせてよ」
「『宇佐美館長』ですよ!」
佐伯の訂正も、今の遥の耳には届かない。
ついに一行は、仁明館の頂点である老剣士の目の前まで辿り着いてしまった。
「宇佐美館長、本日もお世話になります」
康介を筆頭に、全員が「よろしくお願いします」と深く一礼する。
「うむ。……ちゃんと防具を持ってきたようじゃな」
宇佐美は、愛弟子である康介と久々に剣を交えられることが、隠しきれない喜びとして眼光に宿っていた。
その時。康介の大きな背中に隠れていた遥が、ひょいと顔を出した。
「やっほ。宇佐美先生、お久しぶり!」
その場が凍り付いた。
明鏡館のメンバーはもちろん、周囲の仁明館の指導者たちまでもが目を見開く。
(((やっちまった……!)))
五人の心は瞬時に一つになり、背筋に冷たい汗が流れた。
宇佐美は一瞬、眉間に皺を寄せて怪訝そうにしたが、遥の顔をまじまじと見つめると、記憶の糸が解けたように目を見開いた。
「お前……まさか……」
「柚木でーす! 今は桐谷の嫁で、この子の母さんやってまーす」
遥が朗らかに旧姓を告げると、宇佐美は文字通り毒気を抜かれたような顔をした。
「なんと……! 桐谷の嫁は、お前じゃったんか」
「へへへ。宇佐美先生がいるって聞いたから、会いに来ちゃった」
屈託なく笑う遥に、凛が震える声で尋ねる。
「遥さん、知り合い……だったの?」
「うん。学校は違ったけど、昔は合同稽古でよく会ってたんだ。宇佐美先生には、しごかれまくったよー」
「なんでタメ口なんだよ……っ!」
瞬が顔を真っ赤にして小声でなじると、それを聞き逃さなかった宇佐美が、溜息混じりに口を開いた。
「こいつは稽古の時こそお手本のように素直で礼儀正しかったが、稽古が終われば昔からこの調子じゃ」
「マジか……」
「……本当だ」
大吾の絶句に、康介はしみじみと答える。
「……ワシもな、これはいかんと思って、何度も叱ろうとしたんじゃ」
宇佐美の言葉に、全員の視線が集中する。
「じゃが、あまりにも楽しそうに話しかけてくるもんでな……」
宇佐美は、困り果てたような、それでいてどこか懐かしむような眼差しで遥を見た。
「怒れんかった。……それから、ずっとこれじゃ」
あの厳しかった現役時代の宇佐美を、困惑の極みに追い込んだ母親の「爆弾」っぷり。
五人は初めて、宇佐美館長の『隙』を見つけた気がした。




