第99話:士気の連鎖
夜の田舎道を走るワゴン車の中。
「……強かったな」
大吾が、ぽつりと呟いた。
そこには負けた悔しさ以上に、己の傲慢さを削ぎ落とされた一人の剣士の潔さがあった。
「強かった。……だけど、嫌な感じが全然しなかったんだ」
瞬の言葉に、凛が深く頷く。
「そうね。……なんて言うか、打たれたのに、大切にされている感じ。一生懸命さが伝わってきて……上手く言えないけど」
「試合中の相手の気持ちか。……考えたこともなかったな」
守屋が、窓の外を流れる夜景を見つめた。
虎皇館という「勝負の機械」だった場所から明鏡館へ来ても、まだ届いていなかった深淵。
「次、会ったら聞いてみましょう。疑問は解決しないと気が済みませんからね。成瀬先生、また行くんですよね?」
佐伯の問いに、康介がミラー越しに力強く答えた。
「もちろんだ。だが、次に行く時は今日の反省を徹底的に強化してからだ」
康介は言葉を切り、五人を見渡した。
「結果で見る程、実力はそう変わらない。加賀谷は別格だがな。……お前たちに足りないのは技術じゃない。チームになることだ」
「チーム? 前が勝ったら後ろが守る……みたいな戦略ですか?」
守屋が眉をひそめる。だが康介は首を振った。
「そうじゃない。士気だ。自分の前が必死に繋いだ想い、それを引き継いで戦う。その想いが伝染したチームは、個人の実力を超えた爆発力を発揮するんだ」
五人が息を呑む。
康介の視線が、瞬の瞳を射抜いた。
「その爆発力のきっかけ。それが先鋒……瞬、お前だ」
「俺が……?」
「お前の熱い気持ちを、試合にぶつけろ。結果じゃない。相手がどんなに強くても必死に食らいつく姿を、後ろの四人に見せるんだ。『俺は逃げない。後に続け』とな」
瞬の胸の奥で、何かが熱く弾けた。
「俺は……自分が勝つことばかり、考えていた」
「お前ならできる。それが、先鋒の役目だ」
康介の言葉に、五人の心が静かに、しかし強固に結びついていく。
仲が良いだけの集団から、互いの想いを預け合う「チーム」へ。
ワゴン車は、新しい決意を乗せてゆっくりと家路を急いだ。




