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鏡淵の調律 外伝 羽鳥家始源記  作者: ちとせ鶫


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第4話 羽鳥家と御岳の断絶

≪羽鳥家文書庫 乙種第十二号 / 御岳側の記録は現存しない≫


     * * *


> ★ 文書情報

>

> 所蔵:羽鳥家文書庫 乙種第十二号

> 成立:江戸中期(推定)

> 備考:御岳家みたけけ側の記録は現存しない。本文書は羽鳥家側の視点のみで記される。

> 御岳家がどのような認識を持っていたかは、現時点では不明。


     * * *


 羽鳥家は、かつて「御岳家」と呼ばれる家系と補完関係にあったとされる。

 御岳家は「此岸の安定」を守る家系であり、羽鳥家は「境界の揺らぎ」を読む家系だ。

 二つは本来、対をなすものだった。


     * * *


 御岳家は言う——揺らぎは邪だ、と。

 揺らがない世界こそが正しい、と。

 此岸を完全に安定させれば、彼岸は必要なくなる、と。


 羽鳥家は問う——揺らぎがなければ、何が残るのか。

 揺らぎのない鏡に、何が映るのか。

 揺らぎを止めた境界は、膜ではなく——壁になる。

 壁の向こうに積もったものは、どこへ行くのか。


 ——「御岳家との往復書簡断片」(羽鳥家文書庫 乙種第十二号)


     * * *


 論争は長く続いた。しかし御岳家は次第に「揺らぎを忌避する」方向へと傾き、羽 鳥家との対話を断ち切った。

 正確な断絶の時期は不明だが、文書上の記録は突然途絶える。


     * * *


 御岳家からの最後の書状には、こうあった——


 「揺らぎを肯定する者と、これ以上言葉を交わすことはない。

 揺らぎは管理されるべきであり、我らはその方法を見つける。

貴家の協力は不要だ」


 ——羽鳥家はこれへの返書を書かなかった。

 書状の余白に、一行だけ記されている——

 「揺らぎを管理しようとした者の行方は、歴史が証明する」


 ——同文書


     * * *


 御岳家のその後は、羽鳥家の記録には一切現れない。

 陽子は、御岳家について尋ねた澪に、こう答えたという——


 「御岳家がどうなったかは、私も詳しくは知らない。

 ただ——揺らぎを止めようとした家が、

 揺らぎなく続いているということは、ないと思う。


 揺らぐことが、続くということだから」


 ——羽鳥陽子(如月澪への談話)


     * * *


> ★ 澪の考察

>

> 御岳家の「揺らぎを管理する」という思想は、

> 千年の後に——神代朔也の「完全同期思想」として再び現れた。

>

> 「揺らぎはバグだ」「ズレは修正すべきだ」という論理は、御岳家の言葉と構造が同じだ。

> 歴史は繰り返す——という言い方はしたくないが、

> この類似を記録しておくことには、意味があると思う。

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