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鏡淵の調律 外伝 羽鳥家始源記  作者: ちとせ鶫


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第3話 役割の確立 ——見守るということ

≪中世期の伝承 / 如月澪 採録≫


     * * *


 千歳の後、羽鳥家は数世代にわたって「境界の揺らぎを読む」という役割を地域の中に定着させていった。

 以下は、その時期の口伝を澪が採録したものだ。

 語り手は陽子の祖母——名は伝わっていない。


     * * *


 「その頃ね、羽鳥家は鏡を持ち歩いていたんだよ。

 大きな家の大きな鏡じゃなくて、手のひらに収まる小さな鏡。

 それを使って、村の中の『揺らぎの地図』を作っていたの。


 どこが薄い、どこが固い、どこが傾きやすい——

 そういうことを、ずっと記録してた。

 地図は百年以上かけて精密になって、

 ある代になって初めて『鏡淵』という地名がついた場所が特定された」


 ——陽子の祖母の語り(如月澪 採録)


     * * *


 「揺らぎの地図」——羽鳥家が中世期に作成したとされる境界変動の記録は、現存していないが、その概念は文書断片の中に痕跡を残している。

 「薄い場所」「固い場所」「傾きやすい場所」という分類は、後の神代重工のΔs値の原型と言える。


     * * *


 「羽鳥家の掟はね、三つだけだったって。


 一つ——揺らぎを止めようとするな。

 一つ——境界を開こうとするな。

 一つ——向こうにいる者を、こちらから呼ぶな。


 どれも『するな』ばかりでしょ。

 羽鳥家は『してはいけないことの家』なんだよ、って——

 でも次に祖母はこう言った。

 『そうじゃない。何をしてもいいかを知っている家だ』って」


 ——同上


     * * *


> ★ 澪の付記

>

> 「向こうにいる者を、こちらから呼ぶな」——この掟は、正史の中で一度だけ破られている。

> 陽子が地脈を開放した時だ。

>

> しかし陽子はこう言った——「管理権限者として許可するのではなく、

> 私個人の願いとして、開けます」と。

>

> 掟を破ったのではなく、「羽鳥家」としてではなく「個人」として動いた——

> そういう解釈を、私は美しいと思う。

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