第3話 役割の確立 ——見守るということ
≪中世期の伝承 / 如月澪 採録≫
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千歳の後、羽鳥家は数世代にわたって「境界の揺らぎを読む」という役割を地域の中に定着させていった。
以下は、その時期の口伝を澪が採録したものだ。
語り手は陽子の祖母——名は伝わっていない。
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「その頃ね、羽鳥家は鏡を持ち歩いていたんだよ。
大きな家の大きな鏡じゃなくて、手のひらに収まる小さな鏡。
それを使って、村の中の『揺らぎの地図』を作っていたの。
どこが薄い、どこが固い、どこが傾きやすい——
そういうことを、ずっと記録してた。
地図は百年以上かけて精密になって、
ある代になって初めて『鏡淵』という地名がついた場所が特定された」
——陽子の祖母の語り(如月澪 採録)
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「揺らぎの地図」——羽鳥家が中世期に作成したとされる境界変動の記録は、現存していないが、その概念は文書断片の中に痕跡を残している。
「薄い場所」「固い場所」「傾きやすい場所」という分類は、後の神代重工のΔs値の原型と言える。
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「羽鳥家の掟はね、三つだけだったって。
一つ——揺らぎを止めようとするな。
一つ——境界を開こうとするな。
一つ——向こうにいる者を、こちらから呼ぶな。
どれも『するな』ばかりでしょ。
羽鳥家は『してはいけないことの家』なんだよ、って——
でも次に祖母はこう言った。
『そうじゃない。何をしてもいいかを知っている家だ』って」
——同上
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> ★ 澪の付記
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> 「向こうにいる者を、こちらから呼ぶな」——この掟は、正史の中で一度だけ破られている。
> 陽子が地脈を開放した時だ。
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> しかし陽子はこう言った——「管理権限者として許可するのではなく、
> 私個人の願いとして、開けます」と。
>
> 掟を破ったのではなく、「羽鳥家」としてではなく「個人」として動いた——
> そういう解釈を、私は美しいと思う。




