第54.5話 『断層域深層報告書』未分類断層記録群より抜粋(幕間)
<断章Ⅰ:最奥部の存在>
アウレリア断層域は、単一構造ではない。
外縁部においては亀裂は線状、あるいは網状に分布する。
しかし中心部へ向かうにつれ、亀裂は明確な収束傾向を示す。
これは地学的崩落では説明がつかない。
断層は崩れたのではなく、一点へ向かって裂けている。
なお、地図上における中心位置の特定は不可能。
地形は常に変動し、測量結果は一定時間後に一致しなくなる。
ただし複数の調査隊が共通して報告している現象として、体感的に「重力が増す地点」が存在する。
当該地点において観測された現象は以下の通り。
・音の遅延
・影の輪郭の曖昧化
・距離感覚の錯誤
・感情の希薄化
・恐怖・怒りなど強感情の減衰
特筆すべきは、精神状態の平坦化である。
恐怖の対象を前にしても、感情の振幅が小さくなるとの報告がある。
当該領域は精神汚染ではなく、感情そのものの減衰環境である可能性が高い。
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<断章Ⅱ:核に類する構造の記録>
複数の調査記録において、地中より突出する半透明結晶構造体の存在が報告されている。
形状・大きさは不定。
柱状、塊状、樹枝状など個体差あり。
周囲の地面は渦状、あるいは同心円状に裂けている。
結晶内部に観測された現象:
・内部揺らぎ
・周期的光度変化
・脈動に類似した周期振動
・微弱な魔力流出
・周囲空気の屈折
近接調査隊員の証言:
「何かに見られている感覚」
「糸の塊のようだ」
「音が歪み、距離が分からなくなる」
「近づくほど、自分のことをどうでもよく思えてくる」
なお、当該調査に参加した隊員三名は、帰還後に急速な褪色症状を発症。
共通症状:
・欲求の低下
・感情反応の減衰
・自己保存意識の低下
・夢や目標の喪失
・痛覚反応の遅延
当該結晶構造体は、単なる魔力結晶ではない。
感情干渉性構造体である可能性が高い。
中心部に魔力集積核が存在すると推定。
残滓が縫合するように集積していたことから、本報告書では、暫定的にこの核を縫合核と呼称する。
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<断章Ⅲ:定着拒絶の中心仮説>
断層域における色糸定着挙動は、領域により異なる。
外縁部:
感情は定着せず拡散する。
編成後、糸は霧散または流出する。
中層部:
編成は成立するが、定着が不安定。
一定時間後に崩壊。
中心部:
定着操作そのものが拒絶される。
編成段階で干渉が遮断される。
以上より、土地全体が定着を拒絶しているわけではない。
中心部に存在する縫合核が、定着操作そのものを遮断している可能性が高い。
通常詠唱による干渉深度は浅く、構造深層へ到達していない。
よって、表層干渉は遮断される。
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<断章Ⅳ:完全詠唱との関連性(仮説)>
色糸魔法完全詠唱は、通常詠唱とは異なる干渉方式を持つ可能性がある。
通常詠唱:表層干渉型
完全詠唱:構造干渉型
もし縫合核が構造歪みの発生源であるなら、深度干渉により局所的安定化を誘発できる可能性がある。
すなわち、完全詠唱による構造干渉は、断層域の定着拒絶を突破できる可能性がある。
ただし理論検証は未実施。
理由――
唯一の詠唱可能者、識別番号CR-03-αの発育が不十分なため。
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<断章Ⅴ:備考(筆跡不明)>
本断層域について、私は一つの仮説を持つ。
最奥部は感情を拒んでいるのではない。
感情を排除しているのでもない。
定着の深さを試しているのではないか。
浅い感情は散る。
浅い編成は弾かれる。
だが、深く編まれたものは、あるいは届くのではないか。
もしそうなら、断層域は災害ではない。
試練装置に近い。
――何のため、誰のための試練なのかは、不明。
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記録はここで途切れている。
観測記録、理論、仮説も存在する。
だが、答えは未だ実証されていない。
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