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ナウル・デライト26歳、晩夏。~巫女の力~

「あ、」


 近衛兵がぞろぞろやって来て室内を隈なく調べている最中、妃陛下が小さな声を上げて窓際に歩み寄った。眼下では屈強な男達が毒蛇駆除をしている筈だ。近衛を除く軍人と関わる機会のない妃陛下にはそれが珍しいのかと思ったが、どうも違うようだ。嬉しそうに手を振る先を見遣れば、ちょんちょん首を上下するピンク色。


「水が?!」


 その姿が光を背負っているかのように見えたのは、噴水から流れる水の所為だった。遠い昔に失われた水が。


「あら?」


 王妃はまだまだ膨らみの目立たない腹に手を当て、それから、妃陛下の私室の場所など知らない筈の少女が此方を向きぴょこんと頭を下げるのを見ていた。


「礼を、伝えている?」


「そのようね」


 少女は噴水の水にちゃぷんと手を浸して、その傍らでは大きな鷲がうまそうに水を飲んでいる。


「もしかして、噴水は貴女が?」


「そうなのでしょう」


 妃陛下に宿った女神の力で噴水が蘇り、それに気付いた巫女が直接礼を伝えている。それが今の光景だと解釈するのが自然だろう。


「ミケーネの姫君は、我が一族とは異なる力を有しておられるようで御座います」


 侍女の言うには、王妃の祖国である森の国ネミでは巫女が神々の為さりようを具に感じ取り予見して政に役立てる。神々の存在を身近に感じる事は出来ても視る事はない、というのが共通認識らしい。納得だ。それなら神々を深く信奉していられる。何しろ。


「あの言動ではな…」


 平民の若い娘のようにキャッキャッと元気に騒いだり不満をぶち撒けたり。ああ、彼女と最も仲の良い女神は奥ゆかしいのだったか。それにしても、随分と人間じみた性格である。


「デライト侯爵。わたくしの周囲の変化は、もしかして姫君のお陰なのかしら」


 夢うつつに見た春の女神の正体に気付いたのなら、その結論に至るのは当然であった。私はその日の出来事を、宿りし女神の口調だけは偽ったが、それ以外は隠すことなくすべてを告げた。侍女は大いに驚き目を見張り、妃はゆっくりと目を閉じた。そうして。


「ミケーネのお方々へ親愛を告げるのは、何を持ってするが良いのかしら」


 お礼がしたいと言うが、それこそ最も難しい。デライト家もキエフルシ家も未だ充分な礼をしておらず、却って恩義ばかりが増えていく。今だってそうだ。

 けれど、彼女たちを喜ばす手立てがないではない。



「母子ともに健やかに産み月を迎え、生まれた子を慈しみ育てること。彼女らにとって、それに勝る恩返しはありますまい」



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