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マドレーヌ14歳、晩夏。~預言と未来視〜

「この度は…」

「学院時代から貴方を追いかけ回していた万年白昼夢女の行方をご存じないかしら?」


「「え?」」


 幾ら夫婦の寝室で使うようにと言ったって、媚薬である事を隠して渡した以上、もしもがあれば夫婦の危機だ。従兄の洒落にならない悪戯に両手をついて謝ろうと頭を下げかけた矢先の、怒気を孕んだ言葉に2人して思考が止まる。


「万年白昼夢女、ですか?」


「ええ。王女殿下(めんどくさいバカ)を焚き付けるだけ焚き付けて挙げ句の果ては愛人帯同で異国に嫁がせようとした常識も倫理観も恥の概念も皆無な、貴方がたの一つ歳下の万年白昼夢女よ」


 おかしいな。ここは王宮で、国で最も位の高い人がすぐ近くにお住まいになっている場所だ。それなのに、不敬のど真ん中を超豪速球のどストレートでぶち抜く発言が聞こえた気がする。しかも、ちゃんとした家に生まれ育ちちゃんとした家に嫁いだ夫人の口から。


「キーバーで領主邸に保護され、迎えに来た兄君と共に王都に戻ったらしい、までしか知らないな」


「そうなのね。あの女の事だから接触を図ったと踏んだのだけれど」


「それどころでは無いんじゃないかな。余りに手広くやり過ぎた所為で父君の死後、鉱山経営の方は芳しくないと銀行家の間で話題になっているようだし」


「なるほどね。それで、“聖女”を名乗っては信者から小金を巻き上げている、という流れかしら」


「そんなところだろうね。兄君は『聖力を有する神のルビーが発掘されたから近く大金が入る』と言っているようだけれど、貸主の反応は薄いね」


「貸主、ねえ。どうせ情報元は例の、卿のパトロネスでしょうけれど」


「今は健全なビジネス・パートナーだよ」


 まったく事情の飲み込めない未成年者を置き去りに、何やら大人の会話が繰り広げられる。ちょっとしたサスペンスドラマを見ている心持ちで、不謹慎ながらワクワク胸が踊る。特に、聖女とか神のルビーとか、そのあたりが異世界っぽくて良い。実に良い。交神や降神は何処か高い棚の上に置くとして、魔法なんてものがあるならぜひ見てみたいものだ。勿論、安全性が確保された場所で。


「お姉様!差し支えなければそのお話、詳しくお聞かせください!」


 ***


「お義姉様。わたくしに、果たすお役目はございましょうか」


 昼餐会の翌日。顔繋ぎを兼ねた昼興行(マチネ)に赴く馬車の中でそう問うてきた義妹の顔には焦りが滲んでいた。

 ラデュレの妹で近く王家に嫁ぐことが決まっている彼女は、道中の危険を完全に排除出来ないと国に申し入れて王宮内での用事を作って貰い、公開演習には赴いていない。勿論、キーバーにもコメルシー村にも。だから王女スヴァーヴァ・ミケーネ様との面識はなく、その娘であるマドレーヌ姫は、行儀見習いで家に仕えていた男爵令嬢という認識しかない。よって、異国の高貴な方々の接遇という初の大厄に身構えたものの“いつも通り”と告げられ困惑したという。そうした胸の内を詳らかに明かす事もさることながら、「淑女たる者、父や兄に従い、嫁いで後は夫に従え」との教えを受けて育った彼女が自身から働きかける事は非常に稀で、恐らくはこれが初めてではないかと思われた。


「そうね、難しく考えず講師に習った通りで良いでしょう。――初めての外交が、そんなに楽しみかしら?」


 違うでしょう?と言外に問い掛ける。言いたくなければ「はい」と答えるだけでよく、何か心に引っ掛かるものがあるのならば吐露できるように。こうした気遣いもまた上に立つ人間には必要な素養だ。まあ、前公爵夫人(あのクソババア)はついぞ身につけることはなかっただろうけれど。


「はい、いえ、あの…」


 口答えどころか意見を言う事すら禁じられて育った義妹は、自身の胸の内を言葉にするのが苦手だ。それどころか、相手の求める返答をしようと考える余り身構え長考する癖がある。国を治める立場になるというのに、それでは傀儡にされて良いように使われて終わりだ。或いは、前公爵夫妻はそれを狙っていたのかも知れない。娘を使って、ゆくゆく生まれる孫を使って、国を己の望むままに動かそうとしていたのならば辻褄が合う。



「わたくしは殿下の后になれないと、預言のあるそうなのです。ならば、わたくしはどうなるのでしょうか?」



 *****


「国内外に発表し終えた今、余程でなければ婚約者が替わることはないわ」


 王侯貴族の婚姻は惚れた腫れたで決まるものではない。いわゆる名家の夫婦は家や領地の共同経営者であり、例えるなら企業のそれと近い。実質的な吸収合併か共同経営か業務提携か、今後の方針によって結びつくべき相手が選出される為に、婚約や婚姻は両家のみならず周囲にとっても重要な意味を持つ。よって、高貴な身の上になればなるほど相手選びに慎重さが求められ、未来の国王の座が約束された王子の后ともなれば国には選出した責任が生じる。


「純愛王の暴走行為とそれによって生じた混乱をすっかり忘れる程には、まだ年月も経っていないしね」


「ええ。夢見がちなお子様ならまだしも20も半ばよ?そうした事情を知らないとは言わせないわ」


 どちらか或いは双方の不貞行為や能力不足が露見しても宮中に入れてしまえば、子孫繁栄以外の職務と権限を取り上げてお飾りにするなど、色々と遣り様がある。最悪、純愛王ご夫妻のように頃合いを見計らって両者とも儚くなっていただくという手段もあるのだ。


「にも関わらず婚約者が后になれない。それは、死亡かそれに準じる状況になった場合ね」


「!」


「その預言の主が?」


「ええ。未来視が出来るという触れ込みの、“夢想の聖女”サマ。年がら年中白昼夢を見ていたあの女よ」


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