マドレーヌ14歳、晩夏。~新たな噂〜
「メティお姉様素敵!かっこいい!」
武門の家から嫁いだ若く美しい妻が大勢の前で「家族は自分が守る」宣言をした話が物凄い勢いで広まっている。上から下までしっかり教育が行き届いた家の使用人は家内で起きた事を外に洩らす事はしないが、此度の一件は夫人自ら声高らかに知らしめたものだから、ここぞとばかりに喧伝したようだ。何たって、社交というものに縁がなく噂話に疎いマドレーヌの耳にすら入ってくるくらいなのだから。
「スヴァーヴァ様には到底及ばないけれど、マドレーヌちゃんにそう言って貰えるのなら自棄になった甲斐があったというものね」
今では「初恋の君を力尽くで射止めた」だの「キエフルシ家の悪い噂を流した者に決闘を挑んだ」だの「夫に近づく女を一刀両断に切って捨てた」だの、尾鰭や背鰭や胸鰭どころか頑強な足まで生えた噂が好き勝手に一人歩きしているらしい。散々な言われようだが、本人曰く「ゴミ虫が減って良い」との事。
「それで、呼び出した理由ですけれど。スュトラッチ卿」
ふさふさと豊かな長い睫毛でも隠しきれない圧でもって相手を射抜く鋭い眼光に、フルンの喉が微かに鳴った。
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「メティお姉様が王宮に?」
「妹さんの件で用事があるみたいだよ。都合が合えば話があるって。……一緒に行ってくれない?」
「それは構いませんけど」
恐らくは王都じゅうの話題を掻っ攫っているキエフルシ公爵夫人との面会だ、断るという選択肢はない。それに、2人きりで会うのは誤解を招きかねず、その点に於いてもお断りなんてしないけれど。
「何か、心当たりが?」
奥歯に物が挟まったような様子が気になり問うてみる。
「うぅん、ちょっとね」
言い淀むのを聞き出してみれば、以前キエフルシ公爵ラデュレにリラックスできる薬だと偽って媚薬を渡してゴニャゴニャ。なので面会要請も「ツラぁ貸せよ」的な意味に感じてしまいムニャムニャ。「観念してさっさとシバき倒されて来い」と言いたいところではあるけれど、メティヴィエはどうも母や養母と同じタイプの、要は、物理で解決する人間だ。その点は大いに心配ではある。
「わかりました。いざとなれば、最終手段です」
「良い策が?」
「平身低頭、先んじて全面降伏して助命嘆願しましょう!」




