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マドレーヌ14歳、晩夏。~呪いの言葉〜

「娘」


 実の息子2人の奸計により“教育虐待”の疑惑を着せられた伯父を見る皆の眼差しが冷たく厳しい。けれど本人は気にするふうもなく、そもそも気付いてすらいないのではないだろうか。文字や言葉で示されない限り伯父にとっては“何も無い”のと同義であり、その我関せずな態度がまた疑惑を確信に変えていく。

 そんな中での不意打ち気味の呼び掛けに皆の注目が集まるのも致し方ない事で。


「先の情報共有の際に判明した呪術的な文言について。我が家の口頭伝承が関わっていると推察される」


 *****


「例のご令嬢とあの方との間に子は宿らない、可能性が非常に高いですね」


 伯父の要請(もとめ)に応じて異国の要人を診察し終え、侍医局長室にて現時点で判明した事実を共有する。参加者は伯父とその2人の息子との計4名。カザンディビは侍医局長に何かあった際に代役を務められるようにと参加を表明したのだが、それは表向きの理由だろう。祖父や父と似た気質の持ち主である彼だから、現在の患者の様子を知りたくて首を突っ込んで来たに違いない。


「女人同士で子を為すとあらばこの世の摂理に反する所業である」


「まあ、そうですね」


 ともあれ、伯父の指示に従ってがっつり触診を試みるも嫌がられたので脈を測るくらいしか出来なかったが、異国の要人の手の形は女性に多いものだったし、肩幅や喉仏の小ささをみても女性の可能性が高い。加えて、微かだが血の匂いがした。外傷に拠るものとは異なる、()()()()特有の匂いだ。この先1週間程度はお困りだろうから、タオル類や落とし紙、それからお湯も、たっぷり用意しておくようお願いしてきた次第である。


「問題は如何にして治療すべきかだが」


 伯父が眉間に皺を寄せるのは、幻覚剤の治療方針ではない。

 高貴な人間には、例えば母スヴァーヴァには養母マリーのように、父ヘルギには上の伯父フュルギエのように、側仕えの存在が必要不可欠。けれど側仕えが不在の異国の要人には外務局の高官がついていたのだが、外務局の人間からは「東国の王子」と紹介されたし、衣服も丈の長い上着にゆったりとしたパンツスタイルという、王国では男の衣装。そこで伯父は「患者は女であるので男の自分では診察できない」「女の体であるのに男であると主張するのは“正しくない”ので在るべき認識に“正さねばならない”」と考えたようだった。


「ううん。そちらは無理に矯正治療をしなくて良いのではないでしょうか?」


「患者を本来のあるべき状態に戻すことが医療の目的の大きな柱の一つである」


 長年にわたり医療者として奉仕してきた伯父の志の高さは素晴らしい。が、単なる男装であっても性別不和だとしても治療する類のものではない、のだが。


「そうですね。では、第一に昏倒の原因となった薬物の治療。その次に生来の性別通りのあるべき状態に戻す治療をする、というのでは如何でしょうか?先ずは体が健やかでなければ方針が立てられませんから」


「なるほど、道理だ」


 主治医の同意が得られた事で無事に次に進められる。

 今回の診察で最も気になったのは、通訳として同行したフルンへの態度だ。患者は何故かフルンをぎろりと睨みつけ、ぶつぶつ口の中で呟いていた。まるで呪詛のように。


「あの時、何て言ってたんですか?怨み節っぽいの」


「ああ、あれ?聞こえた範囲だけど、“裏切り者に天の鉄槌を”、”偉大なる祖神に生贄を“って言ってたよ」


「えー、なんか気分悪いですねー。帰ったら厄落とししましょう!ご馳走いっぱい並べてパーっと!」


「厄落とし…というと、悪魔祓いのようなものでしょうか?随分と楽しそうですね」


「楽しいのが何よりの魔除けです。笑いの効果を甘く見ちゃいけないですよ」


「ふふ。神の御験(みしるし)がばっちりありそうだね」


 笑う門には福来る!おいしいものは全てを救う!と心の中で拳を高く掲げて演説を打っていると、伯父が険しい顔で黙っているのに気付いた。息子に浴びせられた暴言に憤っているのかと、その時はただ単にそう思っていたのに。




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