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ダルドワーズ28歳、晩夏。~白パンとトウモロコシ〜

「つい最近まで“馬の餌を食う人間”などと言われていたのにな」


 乾いたとうもろこしの実を鍋に入れながら、ダダールさんは困ったような、喜ばしいような、複雑な笑顔を浮かべていた。

 皮をきれいに取り去った小麦粉で作るふかふかで柔らかな白パンは金持ちの食い物だ。多くの人間は小麦を丸ごと使ったボソボソで硬い茶色いパンや、寒い地域ではライ麦から作る黒くて酸っぱいパンを食う。それすら難しい貧しい人々は馬の飼料となる硬いとうもろこしを挽いて粉にして焼いたものだとかを食う。そこで、白パンが食える人間がそうではない人間を見下して言うのが「〇〇を食う人間」「〇〇なんて人間の食い物ではない」という文言で、“馬の餌を食う人間”といえばおよそ奴隷同様の待遇で使役される移民を指す。

 働いても働いても、白パンどころか挽きぐるみの茶色いパンさえ買えない貧しさから脱却すべく奮起し今の地位にあるダダールさんには、弾けるとうもろこし(ポップ・コーン)が下働きは勿論のこと若者を中心に中流以上の家に生まれ育った王国民にもすんなり受け入れられた事に、未だ実感が湧かないという。


「味を知らなきゃあ何でも言えるが、一度でも食えばもう終わり、手が止まらんと苦情すら来ている」


「止まらんと言ったって、上流階級の連中は手掴みで食うわけにもいかないだろ?」


「まあな。料理人に作らせてもスープの浮身になって出て来るのが精々らしい。特にご婦人方は」


「ああ、それで」


 鍋の中でパチパチ音を立て始めたポップ・コーンは、今日これから来訪予定の国防大臣へ渡すのだろう。来訪の理由は、ミセス・チーフ・マウザーに子猫のねずみ駆除の特訓を願う、というしょうもないもので、建前であることが丸わかりだった。つまり、無理やりな理由をこじつけてでも至急面会しなくてはならない事態が起きたということ。


「まったく。どうも、我ら第三部隊は王宮の()()()()と思われているようだ」


「けっこうけっこう。天使の加護を我らばかりが独占しては恨まれる」


 およそ重大かつ喫緊の要件を携えてやって来る国防大臣たちは来訪の度にキャンディを舐めて来たるべき激務(みらい)に備えている。何時ぞやはハズレの、それなりの薬効しか持たないが味の良いキャンディを引いたらしく、困惑と歓喜に震えていた。この薬草キャンディは製造にたいへんな手間がかかる為、極々親しい人間にしか卸していない。王宮で言えば、第三部隊が唯一だ。


「加護、か」


 赤ん坊の時に一生分泣き喚いたのか、マディは不機嫌になる事が少ない人間だが、料理をしたり調薬をする時なんかは特に機嫌が良い。にこにこ笑顔で不思議な旋律の歌を口ずさんだり鼻歌を歌ったりするものだから、見ている方も自然と笑顔になる。それが加護といえば加護なんだろうが、飴の当たり外れにそれほどの意味は無いだろうに。


「あ、そういえば。この前、ダダールさん達の一族から教えて貰ったろ?植え付けとか収穫の時の歌」


「ん?ああ、あの労働歌か」


「そう。格好いい、自分達じゃあ出せない奥行きがあるとかで、マディとスヴァさんが嵌ってるんだ」


 公開演習では思わぬ客人によって挨拶は出来なかったが、その後、グルン家でダダールさんやルピスさんの親兄弟と面会。相手方は青くなるやら狼狽えるやら忙しかったが、例によってキャッキャキャッキャ騒がしい母娘に毒気を抜かれ、マディの質問攻めが終わる頃には歌と踊りを習うまで打ち解けた。その時に初めて聞いたその歌はとても自由でリズミカルで思わず体を動かしたくなるものだったし、腰と尻を滑らかに動かして異性を誘う踊りによくあっていた。


「あの時は盛り上がったな!俺も箱を叩いたのは何年ぶりか」


 興の乗るに任せて指笛を吹いたり空いた木箱を叩いて奏でるリズムに合わせて自由気ままに歌い踊る。踊れないヘルギさんの両側ではスヴァさんとマディがぴょんぴょん飛び跳ねたりして、ハイタッチなんかして、大いに盛り上がったのだ。


「そのうちルピスさんに歌って欲しいとか言い出しそうで、その時は悪いけど付き合ってくれると助かる」


「なに、此方としても願ったり叶ったりだ!ああした楽しみが王都でもできるとは思ってもみなかったからな」


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