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マドレーヌ14歳、夏。~流しそうめん大会〜

「父ちゃん頑張れー!」

「あーッ!ほら早く早く!!」

「次のが行くよ!!」


 子供達の賑やかな声援と屈強な男達の汗が飛ぶ、夏の午後。ほのぼの、団欒、郷愁、そんな概念と共にあるはずの行事が眼の前でゲシュタルト崩壊を起こしかけている。


 流しそうめん。


 流しそうめん。


 流しそうめん。


 流し……。


「ッしゃー!オレンジ確保ッ!!」


「次はトマト行くぞー!」


「おう!陣形変更だ、後方部隊は2歩前進!」


「………」


 ループ部分や急斜角なスライダー部分から弾丸のように飛び出す果物や野菜を軍人たちはナイフやフォークで仕留め、周囲から喝采を浴びている。一応は流しそうめんから始まった前回とは異なり、今回はまだ一本もそうめんは流されていない。だから正確には、流しそうめんではない。


「いやー、いい汗かいた」


「うん、凄かったよダル義兄さま。でもさあ、老若男女がの~んびり楽しめるイベントのはずなんですけど?」


 村で一番初めにやったときは、そうだった。けれど軍人という名のウェーイ系熟練大工が集まって改良に次ぐ改良を重ねた結果、そうめんの流路がみるみる複雑に。そこに陽キャの権化スヴァーヴァと脳筋代表ダダールが参戦したことで、今や一大アトラクションと化している。そうめんを流す水も、本来ならば風車と管と樽を使って循環させるシステムのはずが、今回は手押しポンプを取り入れて筋肉自慢たちが筋トレがてら押すせいで勢いがつきまくり、大きなオレンジもネクターもトマトもしっかり押し流せるほどだ。


「まあ、そう言うな。子供らも楽しそうだぞ」


「見てるだけなんだけど、楽しいかなあ?」


「任地が遠方過ぎて父親が活躍する姿なんて滅多に見られないからな」


「そっか。なら、まあ、いっか」


 第三部隊内の妻帯者のうち、ダルドワーズが村に移住を薦めた人間はごく僅か。それは彼が、万が一の時に頼れる親戚が近くにおらず、幼子を連れて身を寄せる先もない家庭に絞って声を掛けているからだ。ゆえに、今日参加する多くの人間にとって、村でよくやるどんちゃん騒ぎは初体験。大人も子供もボルテージが上がりまくっている。


「向こうも、見てるだけだが楽しそうだぞ」


 庭に面した応接室を見遣れば、デザインこそシンプルだが、どうみたって庶民に見えない上等な仕立ての服を纏った貴婦人が「まあ」とか「あら」とか、時たま小さな口を開けて驚いている。淑女らしい優雅な空気を創り出しているのは、キエフルシ公爵夫人とデライト侯爵夫人であり、ずっしり重くておいしそうなオレンジやネクターや、その他高級フルーツの贈り主である。


「礼を言う。シャルの良い気晴らしになったようだ」


 今日の流しそうめん大会は、妊娠中で行動範囲が限られるマーシャルがナウルにおねだりして実現した。正確には、マドレーヌ達が王都に来ていると知ったマーシャルがメティヴィエと共にコメルシー邸に行きたいと言い、それなら何かの口実が必要だとダルドワーズに相談があり、「ならばやるか」とダダールが部隊員とその家族に持ち掛けて、実現した。その間、僅かに2日。即断速攻がモットーである。


「それなら良かったです。騒々しいので、ご気分が悪くならないか心配だったんです」


「私も懸念したが、存外、活動的な催しを好むようだ」


 宙を舞うトマトをフォークでぶすりと一撃で仕留める姿にパチパチと小さな拍手を送る。予想軌道を大きく逸れたトマトを追い掛ける姿を食い入るように見つめている。そんなマーシャルの姿は、遠い遠い昔に見覚えもあれば身に覚えもある。そう、あれはまさしく。


「野球チーム作ろうかな」


「何か言ったか?」


「いいえ。そうだ、これからピザを焼くので、具材を選んでってください」


 六甲おろしを脳内に吹かせつつ、即席の窯と焼き台の前に広げたテーブルの前に案内する。例によってベースとなるソースにカットした肉類や野菜、チーズ、はちみつ、ジャム、コンポートなどが色々と並べてあり、お好みの組み合わせを試せるシステムだ。


「シャル自身は食したいようだが、今回は匂いに敏感になっていてな」


「じゃあ、生地だけ焼きましょうか?もしくは具材を生地で包んで焼きますよ」


「どちらも試したい。頼む」


「マドレーヌちゃん。俺は筋肉の喜ぶ組み合わせにしたいぞ」


「はいはーい。そう来ると思って、ダダールさんはコレね。トマトソースに鶏むね肉のグリルと夏野菜、チーズはお好みで」


「野菜か…」


「室長、野菜ピザにします?トマトソースか薬草ペーストに野菜を並べて、最後にオリーブオイルを回しかけるとか」


「頼みたい」


「はい。カリソンさんはまたお肉スペシャルにする?」


「そうしたいところなんだけど。子供たちの手前、野菜もちょぉーっと入れとこうかな」


「この前は叱られちゃったもんね、パパさんは大変だ。あ、野菜のとこにマヨネーズ掛けよっか?」


「マドレーヌちゃん!それは素晴らしいアイデアだ!」


 もはや流しそうめんではなくピザパーティの様相を呈しているが、致し方ない。流し役を率先して請け負ったスヴァーヴァが面白がって次から次に放り込んでいるのだから。


「よーし、じゃあこっちも始めますかッ!」


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