マドレーヌ14歳、夏。~バンタル〜
「バンタル兄ちゃん、お勉強がんばってね!」
「おう!お前らもいっぱい食って寝て遊んで、ちゃんと大きくなれよ!」
「デロワと2人で作ったの!お守りだよ」
「さんきゅ。中身はなんだ??」
「目つぶしの粉!」
「………」
「にいぢゃあああああん!!」
「お前は泣きすぎだから。顔面がエライことになってんぞ」
子供達に囲まれて、物騒な代物が封入された小袋を貰い、目から鼻から口から水分をダラダラ溢れさせる子の顔を拭いてやり。そこにはもう、孤独に苛まれていた少年は何処にも居なかった。
「みんなー!今日のお昼は餃子ケーキだよー」
王都に発つバンタルのために子供だけの送別会が催されている集会所に運び込んだのは、餃子の種と皮をミルフィーユみたいに重ねて蒸し焼きにした本日のメインディッシュである。一つひとつ包まないから簡単だし見た目のインパクトも大。トマトとゆで卵とハムでデコレーションケーキのように飾り付け、彩りもばっちりだ。狙い通り、集会所はわぁっと沸いた。
「へえ。マドレーヌが作ったにしては見た目がキレイだな」
「でしょー!飾り付けはわたしじゃないもん」
「イテッ!!」
「いいよダクス、本当のことだしー」
少し凝ったデコレーションにチャレンジしてみても、食材を切り分けるまでは順調なのだが、いざ並べると絶妙にコレじゃない感が漂う仕上がりになってしまう。これは前世から変わらずで、キャラ弁を作った時などは著作権侵害で訴えられないくらいに似ていない謎キャラが出来上がり、同居人を困惑させたのもいい思い出だ。あの時はうさぎのキャラクターにチャレンジしたはずが、犬?猫?豚?とクイズになってしまったな、うん。
とりあえず「ナントカは死んでも治らない」は本当らしいなと物思いに耽っていると、姉思いのダコワーズはいつも通りの憎まれ口を叩くバンタルの耳を更に強くぎゅうぎゅう抓っている。こんな光景も当分は見られないのだと思えば、秋風に似た淋しさが一筋、心の中に吹いた。
「明日の朝にはもう出発なんだね」
迎えに来た保護者に子供達を引き渡して片付けをしていたら、ぐっすり眠った双子を抱えてダコワーズと帰ったバンタルが戻ってきた。共に集会所を出れば夕暮れに辺りは赤く染まり、2人分の黒い影が地面に伸びている。あと少しで夜になり、寝て起きれば朝になり、ルピスとバンタルは王都に向かう。
「あー!これからはお前にこき使われることも無いと思えば清々す……どうした?」
「なんだか急に、寂しいなって、思っちゃった」
大人と幼い子供ばかりの村で、初めてできた歳の近い幼馴染がバンタルだった。たくさん遊んで、時には危険なことをして一緒に叱られて、ごはんだって何度も一緒に食べた。でも、それもきっと今日で終わりだ。
父親と同じ軍人の道を志すバンタルは王立学院を卒業後、指揮官を養成する軍学校に進学すると聞いている。将来の幹部候補生なら実技も座学も厳しいだろうし、また、伯爵子息として王都での付き合いも増えるだろう。少しずつ世界が拡がれば、小さな田舎の村の事なんて少しずつ少しずつ忘れていって。でもそれは、成長の証。
「ごめんね、しんみりしちゃって」
「いや……」
新たな門出にそぐわない湿っぽさに気分を害したか、幼馴染はそっぽを向いた。どうやら呆れられてしまったようだ。気まずいまま歩みだけは進み、気づけばもうコメルシー邸の前。
「そうだこれ、飾り緒」
「手紙、書く」
入学祝いにと約束していた剣の飾り緒の包みを差し出すのとほぼ同時に、バンタルが唐突に宣言した。
「お前、暇そうだし。流行とかも全然知らなそうだし。仕方ねえから、書いてやる」
「嬉しい。ありがと」
「だから、一生の別れみてえな顔してんじゃねえよ」
「うん、ごめ―――」
子供から大人に変わりつつある少年に抱きすくめられ、夕焼けに染まる世界で、2つの影が重なった。
間近に聴こえる力強い鼓動はドクドクと今にも飛び出そうなほど大きく、長いのか短いのか判然としない刻の中、確かに聞こえた言葉は。
―好きだ。




